第122話 だから、師匠は……
「か、仮に、師匠が戦花の魔女だったとして……復讐って……」
「仮にじゃねえよ。そもそも、俺はあいつと同じ軍にいたんだ。成長したとはいえ、あの憎たらしい顔を忘れるわけがねえ」
「同じ……軍?」
先ほどから混乱し続ける頭を、ただひたすらに回転させる僕。
戦花の魔女は、ここから遥か遠い国々の戦争で活躍した魔女と聞いたことがあります。もし、目の前の男性が、師匠から見て敵国にいた人であれば、自分の国を負かした師匠に復讐するというのも納得です。世の中には、報復戦争というものもありますからね。ですが、先ほどの男性は、「あいつと同じ軍にいた」と言いました。味方だった人からの復讐。僕には、それがどうにも分かりませんでした。
「けっ。なんだその不思議そうな面は。しょうがねえな。分かんないなら教えてやるよ」
それからの男性は、これ以上ないというほど自慢げに、自らの武勇伝を語るのでした。周囲の人が師匠ばかりを褒めたたえること。師匠と比べられ、貶され続けたこと。師匠の悪い噂話をでっち上げ、最後には冤罪を着せて、師匠を軍から追い出したこと。
「軍から出ていく時のあいつの顔と言ったら……クックック」
「何ですか、それ。そんなの、ただの逆恨みじゃないですか」
「ふん。逆恨みだろうと、あいつのせいで俺や仲間たちがひどい目にあったことは事実なんだよ」
目の前の男性は、本気で自らの行いを正しいと思っているように見えました。
僕の心の中で、何か黒いものが沸き上がり始めます。師匠は、こんな人と一緒に……
…………あ。
『何も知らない人が、憶測だけであれこれ言っちゃいけないよ。事実をちゃんと知って、それから話をすること。そうじゃないと……』
『一生懸命頑張ってたあなたは、知らないうちに悪者になってたんです……って言われて、そこに何の救いもないなんて、おかしいよ。絶対に』
それは、以前、湖の水質調査の依頼があった時、師匠が語っていた言葉。
そうか。だから、師匠は……。
僕は、今やっと、その言葉の裏にあったものを理解することができたのでした。
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