第120話 夢ですね

「ん……ここは?」


 目を覚ますと、そこには見知らぬ光景が広がっていました。広い部屋。いや、部屋というよりは倉庫と表現した方がいいでしょうか。物が乱雑に捨てられた床。きつい煙草の匂い。ランプの明かりが中を照らしてくれていますが、薄暗くて奥の方まで空間を見通すことができません。


「……って、何これ!?」


 体を動かそうとする僕。ですが、それは叶いませんでした。僕の体は椅子に座らされ、その手足は縄でぐるぐる巻きに縛られていたのですから。自由に動かせるのは首くらい。


 これはつまり……。


 …………


 …………


「夢ですね」


「いや、現実だから」


 突然、僕の横から聞こえた声。そちらに顔を向けると、見覚えのある男性の姿。ローブが付いた灰色のフード。不気味に光る金色の瞳。


「えっと……僕、もしかして誘拐されました?」


「正解。というか、お前、えらく落ち着いてるな」


 感心したようにそう告げる男性。


 まあ、僕も師匠のもとで鍛えられてますからね。ちょっとやそっとのことで取り乱したりなんてしませんよ。そう。誘拐されたくらいで取り乱すなんて。そんなことあるわけないじゃないですか。


 ハハハ。


 ハハハハハ。


 ハハハハハハ……ハ。


「と、というか。あなた誰なんですか!? 何でこんなことするんですか!? 早く家に帰してください!? 僕、お金なんて持ってませんからー!」


「……急にうるさくなりやがった。なんだこいつ」


 男性の顔は、まるで得体の知れないものを見るように引きつっていました。


 得体の知れないものとはいったい誰でしょう。


 そう、僕です。

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