第五章 弟子

第119話 …………見つけた

「じゃあ、僕、仕事に行ってきますね」


「はーい。行ってらっしゃーい」


「お昼前には帰って来られると思いますから。昼食用にいつものパン買ってきます」


「うん。待ってるよ」


 僕は、フリフリと手を振る師匠に背を向け、玄関扉を開けました。雲で覆われた空。ほんのり湿った土の香り。昨夜から降り続けた雨は、今は止んでいます。


 また降り出さないといいんですが……。


 今日の仕事は、役所からの依頼です。以前、師匠によって改善された湖の水質について、追加調査を行ってほしいとのこと。ただ、以前のように、水質がおかしくなったのではありません。水質がきちんと維持されているかの確認をするだけでいいそうです。


「えっと、とりあえず、湖に着いたら……」


 僕は、湖へ向けてほうきを走らせながら、師匠からもらったメモを開きました。中には、僕でも簡単にできる水質調査の手順がとても細かな文字で書かれています。


 本当なら、師匠が付いてきてくれた方が早く終わるんですけどね。なんでも、最近は、気まぐれに始めた魔法の研究で忙しいんだとか。


「まずは水を瓶に入れて……それから、色が変わる魔法を……って、おっとっと」


 まさか、僕の前から別の魔法使いが飛んで来るなんて。危うくぶつかるところでした。メモを見ながら飛ぶのはやめておきましょう。


「すいません。僕の不注意でした」


 僕は、メモをローブの内ポケットにしまいながら、目の前の魔法使いに向かって頭を下げました。


「…………いえ」


 蚊の鳴くような小さい声。声の調子からして大人の男性でしょう。風にはためく灰色のローブ。ローブにはフードが付いており、彼はそれを目深にかぶっています。そのせいで、彼の顔はよく見えません。


「…………見つけた」


 チラリと見えた彼の目は金色。とても鋭く、そして不気味に光っていました。


「あの……何か用ですか?」


「…………」


 僕の言葉に男性は何も答えず、右手をすっと上空へ。挙手するようなその姿は。まるで誰かに合図を送っているかのよう。


「…………!」


 ゾクッと背中に確かな寒気。僕は、男性とは逆方向にほうきを向け、全速力で飛び去ろうと……。


「あ…………れ…………?」


 おかしい……ですね。


 体に……力が。


 どう……して。


 …………


 …………


 …………


 …………


「し…………しょう…………」

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