第94話 な、何これ!?

「何も起きないよー」


 杖を握らされた女の子は、ビュンビュンと杖を振りながらそう言った。うんともすんとも言わない杖。それは、女の子が魔法を使えないことをありありと表していた。


「うーん。じゃあ、次の子」


 役人さんは、悲しげな表情を浮かべる女の子から杖を取り上げ、隣の男の子に渡す。だが、男の子が杖を握っても、特に何も起こらなかった。


 同じことが、目の前で何度も何度も繰り返される。どうやら、魔法を使える人というのは、そうそういないらしい。私の中の期待が、どんどん小さくなっていく。


「次の子」


 ついに私の番がやって来た。私は、いつの間にか諦め顔を浮かべている役人さんから、恐る恐る両手で杖を受け取った。三十センチほどの細長い杖。指で撫でてみると、サラサラと気持ちのいい木の感触。


「君、それを利き手で握ってみて」


 役人さんに促され、私は、杖を右手で握る。


 その時だった。


 私の中の何かが、右手に集まっていくような感覚。体から、力がスッと抜けていく。そして……。


「「「わあ!」」」


「おお!」


 歓声を上げる子供たち。目をこれでもかと見開く役人さん。


「な、何これ!?」


 私は、思わず叫んでいた。杖の先から、青白い光が煌々と放たれていたから。


「こ、ここまで杖が光るなんて! き、君はいったい何者なんだい!?」


 興奮した様子の役人さんの言葉に、私は何も答えることができなかった。混乱で、それどころではなかったのだ。


 この二日後、私は、孤児院から連れ出され、国の軍事施設へと移住することになった。

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