第四章 戦花の魔女

第89話 ……嫌な話、持ってきたんだ

 私が風邪をひいてしまった日。


「じゃあ、弟子ちゃん。ボクが出てくるまで覗いちゃだめだよ」


「覗きませんよ」


「……本当に?」


「本当です」


 ベッドに座る私。そんな私の視線の先。そこには、部屋の入り口で会話をする弟子君と郵便屋である彼女。二人が話している姿を見ると、心がザワザワしてしまう。風邪のせいだろうか。いや、それとも、もっと別の何かだろうか。


 弟子君との話が終わったようで、彼女がパタリと部屋の扉を閉めた。その後、手に持っているタオルとお湯の入った桶を床に置き、服の内ポケットから杖を取り出す。


「何してるの?」


「ん。まあ、念のためね」


 彼女が、部屋の扉に向かって杖を振るう。すると、扉が黄色い膜で覆われた。外から扉を開けられないようにするための魔法だ。


「そんなことしなくても、弟子君は、勝手に部屋の中を覗いたりしないと思うよ」


 ……まあ、別に、弟子君になら覗かれてもいいんだけど。


「…………」


「どうしたの?」


「……嫌な話、持ってきたんだ」


 クルリとこちらに振り向く彼女。その表情は真剣そのもの。冷たい汗が、私の体をゆっくりと流れ落ちる。


「それは……『森の魔女』の私に聞かせたい話? それとも……」


 私は、続けて言葉を紡ぐ。言いたくもない、忘れ去りたい、そんな言葉を。


「『戦花の魔女』の私に聞かせたい話?」

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