第87話 僕、信用ないのでしょうか……?

「じゃあ、弟子ちゃん。ボクが出てくるまで覗いちゃだめだよ」


「覗きませんよ」


「……本当に?」


「本当です」


 僕、信用ないのでしょうか……?


 郵便屋さんは、ニッと子供のように笑いながら、部屋の扉を閉めました。もしかしたら、からかわれていただけかもしれませんね。郵便屋さんは、サラッとこういうことをやってくるので困りものです。前だって……。


 その時でした。突然、扉の表面に、黄色い膜のようなものが現れたのです。どうやら、部屋の中から扉に向かって魔法がかけられたようです。何だろうと思い、膜に触れてみると、僕の手が軽く押し返されました。


「結界……みたいなものかな?」


 …………


 …………


 僕、やっぱり信用ないのでしょうか……?







「終わったよ」


 黄色い膜が消え、郵便屋さんが部屋の中から出てきたのは、それから二十分後のことでした。


「ありがとうございます。師匠はどんな感じでした?」


「別に、いつも通りだよ。今はベッドで横になってる」


「そうなんですね」


 結界のことについては触れませんでした。何だか落ち込むようなことを言われる予感がしましたから。


「あ、お礼にお茶でも……」


「いいよ、いいよ。用事も終わったし、ボクはそろそろ仕事に戻らないと」


「そうなんですね。じゃあ、また今度一緒に。郵便屋さんが好きなお菓子用意しておきますよ」


「ふふ。やっぱり弟子ちゃんは優しいね。それじゃ!」


 そう言って、郵便屋さんは、足早に玄関扉から出て行ってしまいました。この間のように、無理していないといいのですが……。


「……あれ? そういえば、郵便屋さんの用事って何だったんだろう?」

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