第85話 zzz

 一時間後。僕は、師匠の様子を見るために部屋の中へ。


「師匠、具合はどうですか?」


「zzz」


「……寝てる」


 僕は、ゆっくりとベッドに近づき、その横に腰を下ろしました。


「……師匠」


 別に、起こそうと思って声をかけたわけではありません。むしろその逆。本当に起きていないか、確認するために声をかけたのです。


「zzz」


 ……大丈夫そうですね。


「師匠、早くよくなってくださいね」


「zzz」


「あと、簡単に『死ぬ』なんて言わないでください」


「zzz」


「僕、師匠がいなくなったら、泣いちゃいますから」


「zzz」


「だって、僕、師匠のこと、大好……」

「弟子君」


 突然開いた師匠の口。そこから出た言葉。思わず、僕の体は、ピシリとその動きを停止してしまいました。


「し、師匠、お、起きてたんですか!?」


「うーん。弟子君。シチュー……zzz」


 あ、寝言ですか。


 僕は、ほっと胸をなでおろしました。自分の心臓が、かつてない速さで鼓動を刻んでいます。ドクドクと耳に響く心臓の音。もしかしたら、師匠にも聞こえてしまっているかもしれません。


「……って、僕は一体何を」


 今更になって、自分のしていたことが恥ずかしくなってきました。そもそも、最初は、師匠の様子を見に来ただけだったんですけどね。つい魔がさしたというやつなのでしょうか。


 僕は、ゆっくりと立ち上がり、師匠の部屋から出ていきました。

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