第73話 ど、どうしてー?

「ぐぐぐ……じゃあ!」


 旅人さんは、悔しそうな声を漏らしながら、杖を軽く振りました。すると、旅人さんの目の前に、どこからともなくほうきが現れます。それにまたがり、旅人さんは上空へ。


「えい! えい! えい!」


 旅人さんは、師匠の周りをグルグルと飛び回りながら、何度も何度も魔法を放ちます。炎。氷のつらら。突風。岩の塊。その全てがかなりの威力を持っているようで、少し離れた所で見ている僕にも、その衝撃が伝わってきました。最初、魔法で壁を作っていなければ、吹き飛ばされていたかもしれません。


 もし、僕が、旅人さんのように、威力の高い魔法を連発してしまったなら、すぐに魔力切れを起こして倒れてしまうでしょう。ですが、旅人さんは、絶えず魔法を放ち続けます。それだけでも、旅人さんが、魔女として高い実力を持っていることは明白でした。


 ですが、旅人さんの放つ魔法の全てが、何か分からないものにぶつかり、消滅していきました。師匠は、勝負開始時から一歩も動いていません。ただ杖を持って立っているだけ。旅人さんが、師匠の後ろから攻撃している時も、振り向くことさえしませんでした。


「はあ。はあ。はあ。ど、どうしてー?」


 息を切らしながら地面に降り立つ旅人さん。限界が来たことは、誰の目から見ても明らかです。


「……終わり?」


「はあ。ま、まだ……まだ……。はあ。はあ」


「……じゃあ、そろそろ、こっちからもいくよ。……ちゃんと守ってね」


 そう言って、師匠は、旅人さんに向かって杖を構えました。

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