第60話 そっちの扱いの方が嬉しいっすよ

 十分後。


「ま、待たせちゃったね」


 郵便屋さんは、まるで貼り付けたような笑顔を浮かべながら、部屋の中に戻ってきました。


 あ、寝癖なくなってる。


「そ、そんなことより、弟子ちゃん。ボクに何か用かな?」


「あー、いや。実は、僕、後輩さんに連れてこられただけで、用があるわけじゃないんです」


「え? どういうこと?」


 郵便屋さんは、訝しげな様子で後輩さんの方に視線を向けました。


 後輩さんは、先ほど同様、ニヤニヤと笑っています。一体何を考えているのか、さっぱり見当がつきません。


「いやー。いいもの見れたっすね。彼氏さん」


「いいものって……。というか、言いましたよね。僕、郵便屋さんの彼氏じゃないですよ」


 そこはしっかりと訂正しておかなければなりません。郵便屋さんの面白半分で広まった噂ではありますが、勘違いされたままというのも居心地が悪いでしょうしね。僕にとっても、郵便屋さんにとっても。


 ですが、僕の言葉に、後輩さんは首を振って答えました。


「ふふふのふ。やっぱり、『彼氏さん』って呼ぶ方がいいっす。そっちの扱いの方が嬉しいっすよ。ね、せーんぱい」


 ニヤニヤ顔を郵便屋さんに向ける後輩さん。その瞬間、郵便屋さんの顔が、真っ赤に染まりました。それはまるで新鮮なトマトのよう。


「な、ななな何を言ってるのかな!?」


「えっと……どういうことですか?」


「ふふふふふ」


 赤面する郵便屋さん。状況がよく分かっていない僕。ニヤニヤ顔の後輩さん。三者三葉とはまさにこのことを言うんでしょうね。

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