第59話 せ-んぱい

「うーん。夕方の配達、こんな経路でいいかな」


 僕と後輩さんは、とある場所に来ていました。それは、僕がついこの間訪れた場所。そう。郵便屋さんの会社。その一室です。


 僕たちの目の前には、椅子に座って地図とにらめっこをする郵便屋さん。ですが、どこか違和感を感じます。何か、いつもと違う郵便屋さんを見ているような……。


「せ-んぱい」


「ん? どうしたの? っていうか、君、午後からは休みだったんじゃ?」


 郵便屋さんは、こちらを見ずにそう告げました。よほど地図を見るのに夢中になっているのでしょう。


 この時、僕は気が付きました。先ほどの違和感の正体に。


「先輩に、お客様っすよ」


「ボクにお客様? 一体だ……れ……」


 こちらに顔を向ける郵便屋さん。僕の存在を捉えたその目が大きく見開かれていきます。


「で……弟子ちゃん?」


「ど、どうもです」


「なん……で……?」


「さ、さあ?」


「…………」


「…………」


 僕と郵便屋さん。互いに無言。とんでもなく気まずい空間がそこにありました。チラリと横に視線を向けると、そこには、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる後輩さん。


 そもそも、後輩さんはなんで僕をここに?


「う……うにゃああああああ!」


 突然、叫び声をあげる郵便屋さん。とてつもない勢いで椅子から立ち上がり、部屋から飛び出していきました。


 郵便屋さんの素早い動きに合わせて、頭のてっぺんにできていたかわいらしい寝癖が、ピョコピョコと揺れていました。

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