第2話 文芸部なのに、格ゲー勝負

 後輩女子の家に誘われたので、満を持して自作ラノベを持参してきたのに。


 やることが格闘ゲームとは。


「読み合いって、技の読み合いの意味じゃねえから!」


 ラノベの原稿をこたつテーブルに叩きつけて、オレは実代みよに抗議する。


 同じ文芸部同士、「読み合いがしたい」って言うから来たのに。


「だって、格闘ゲームで話が合うの、紺太センパイだけですもん! ゲームする時間も限られてるんすよぉ」


 高い成績を維持するため、実代はほぼゲームなしの生活を余儀なくされているという。ゲームをしていていたら、家族から咎められる。


 だから、家に誰もいない土日くらいしか遊べないのだとか。


「お願いっすよぉ。ネットの人はマナー悪い人が多いし、対戦でもちょうどいい相手がいないんすよ」


 両手を合わせて、実代が懇願してきた。


 こちらはせっかくの休みが潰れてしまったが、やむを得ん。事情が事情だ。


 コイツの息抜きに付き合ってやろう。


「わかったよ。ただし原稿は置いていくから、読んでくれよな」

「ありがとうっす! あたしの原稿も、持って帰ってくださいっす」


 そう実代に約束させて、オレはコントローラーを手に取った。


「随分と、古いゲームだなぁ」

「やったことなかったんで、遊んでみたかったっす。ゲームメーカーが中古で配信していたんで、買ってみたっす」


 しかし、古すぎてどう遊んでいいかよくわからないという。


「まあ、やってみるか。ロングシリーズだし、キャラの性能もそんなに変わってねえだろ」


 ひとまず遊んでみることにした。


「キャラが少ない! 女性キャラも二人くらいだぞ!」


 さすが一昔前に出たゲームだ。女性のキャラもイカツい。露出も激しかった。しかし、当時はこれで萌えていたのだろう。


「では第一試合、行くっす!」


 三ラウンド制で、二ラウンド先取したら勝ちだ。


『ラウンドワン、ファイト!』


 俺の使用キャラは、待ち戦法主体の軍人「ドイル」である。


 対する実代のキャラは、相撲取りの女性『デズモンド半沢』だ。


 実代はボタンをひらすらカチャカチャする、いわゆる『レバガチャプレイ』でオレに挑む。


 さすがに、そんな初心者丸出しの動きではオレに勝てないぜ。


「やっちゃえデズモンド! あっ!」


 デズモンドの頭突きに合わせて、俺はサマーソルトキックを浴びせる。


「ギャー、立てデズモンドーっ! わーやられた!」


 第一ラウンドは、オレが一点を先取した。


 すぐさま、第二ラウンドが始まる。


 今度は、相手もレバガチャをしない。待ちプレイ実行中のドイルへジワジワとにじりより、投げを繰り出す。


「くっ! てめえ、今のはブラフか!」


 そう。さっきのレバガチャプレイはインチキだったのだ。格ゲー初心者だと、オレに思わせるための。


「やり込んでるな、お前」


 オレは何もできず、第二ラウンドを取られた。


 勝敗は、後一本で決まる。


「そうだ、なんか賭けます?」

「いいだろ、そういうのは」

「質問か命令か、にしましょう」

「いいっての」

「負けたほうが、相手のいうことをなんでも聞くことにするっす」


 勝手に、ルールが追加された。


 これは、負けるわけにはいかん。


 相手の頭突きに合わせて、飛び道具を飛ばす。


 その後ダウンさせて投げの膝蹴りでKOした。


「はあ、はあ……」


 どうにか、センパイの面目を保つことには成功したか。大人気ないが。


「あー。負けたー。センパイ強いっすね? 忖度プレイとか、まったくしないし」

「そっちの方が、かえって相手に失礼なんだよ」


 特に、友人が少なくて持て余している相手には。


「ささ、では負けなので、命令するっす。なんでもいうこと……聞くっす」


 なぜか、実代はベッドにあるクッションを抱きしめる。顔を隠し「うー」とうなっていた。


 こんな表情をされて何の想像もできないほど、オレはにぶちんじゃない。

 だが、オレにそんな気なんてさらさらなくて。


「じゃあ、もう一ラウンドやろう」

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