夢と現実の狭間に…
@maxyamada
第1話
渋谷の地下にある闇酒場
一人のくたびれた中年男性がスルメを肴に呑んでいる
齢50を越えているであろう見た目に小太りの身体
丸い眼鏡の奥にくすんだ瞳が悲しみを写している
男はおもむろに携帯を取り出すと陰鬱とした表情が嘘のように華やいだ
アニメ「けいおん」の携帯ケースからいつもと変わらぬ推しの笑顔が男に向けられていたからだ
思わずニヤつく男の隣に全身黒のスーツ姿という出立ちの風変わりな人物が腰を降ろした
「お隣失礼します」
笑顔が張り付いたような奇天烈な顔で話しかけられると思わずギョッとしたが無視も出来ない雰囲気がある
「ああ、どうぞ」
言い終えると同時に黒ずくめの人物が話しかけてくる
「失礼ですが、あなた独身ですね?いやいや、怪しい者じゃございません。私訪問販売を生業にしています、喪荷服素蔵(もにふくすぞう)と言います。お見知りおきを…」
言うだけ言って名刺を渡して来たその人物だが、不思議と嫌悪感は無かった
それどころがつい話をしてみたくなる感覚になってしまう
「ああ、よろしく。お察しの通り独身だよ。私は村田だ、すぐ近くの食品会社に勤めてるんだ」
こちらも名刺を差し出し、それぞれの素性を確認する
「やはりそうでしたか。私も「けいおん」好きでしてね。「けいおん」の女の子達を見ていると現実の女じゃ物足りなくなります」
「あんた分かってるね!今日は僕の奢りだから呑んでよ♪」
好きな女を褒められた気分の村田は喪荷に酒を勧める
「ところで訪問販売って何を売ってるんだい?」
「いま売ってるのは頭の中で思い描いたキャラクターを現実に召喚する道具です」
「ハハハ!?そんなまさか」
「嘘ではありませんよ。ちょうど最後の一つが残ってるんです。試しに使ってみませんか?勿論お代は結構です。気に入ればそのまま差し上げます」
「ホントなの?…まぁタダなら使ってみようかな」
「ただし!………
その道具の存在は店の外に出た瞬間から誰にも話してはいけません。
話せばあなたの欲望は一つ外れた物になってしまいます。
その時は返品をお願いしますね
お気をつけて……」
「あ、ああ…」
カランコロン♪
ありがとうございました〜
村田は喪荷の話を信じてはいなかったが一応鞄に道具をしまい帰路についていた
誰にも話しちゃダメってどう言うことなんだ?
おかしな男だったな
家に到着すると村田は半信半疑で装置の電源を入れた
どうせなら良い夢見させてくれよなぁ〜
すると目の前が明るく光り、村田は思わず目を伏せた…
………
……
…
目を開けると村田の愛してやまない「けいおん」の四天王がビキニの格好で村田を囲んでいた
ふぉおおおおーーーーーーーーー!!
村田は発狂し、4人に抱きつく
触れる!嗅げる!幻じゃない!
童貞だった村田はアニメの世界から出てきた4人を相手に夢のような初体験を済ませ、そのまま眠りについた
翌日目覚めた時には4人の姿はなく、夢だったのかと落胆する村田だったが右手の先が装置に触れ、現実だったと思い直す
もう一度ボタンを押した村田に昨夜と同じ光景が現れる
村田は夢の装置を手に入れたのだった
村田部長最近明るくなったよね
ここ数日生き生きとしている村田を見て部下達が噂をするようになっていた
部下の高橋が村田に話しかける
「最近ご機嫌ですね〜とうとう彼女でも出来たんですか?」
高橋の問いかけに村田は思わずニヤつき肯定する
高橋は村田に
「ようやく2次元から卒業したんですねwしょうじき痛かったすからねw」
と軽口を叩いてしまう
あまりの怒りに村田は「けいおん」のメンバーを現実世界に召喚できるアイテムがあること、そのアイテムで童貞を喪失したことを高橋に話してしまった
その夜、帰宅した村田がいつものようにアイテムを使おうとするとチャイムが鳴った
渋々玄関に出た村田の前に喪荷が現れる
「あなた、約束を破りましたね?商品を返品してください」
相変わらず笑顔の張り付いた奇天烈な顔を村田は思わず怒鳴り付ける
「証拠はどこにあるんだ!あの商品はオレが貰う!とっとと帰れ!!」
早口でまくして立てると勢いよく扉を閉めた
ドアスコープから外を覗くと喪荷はまだ外に立っている
相変わらずあの顔のまま不意にドアスコープに顔を近づけると喪荷は最後の忠告を村田に告げる
「もうあなたの欲望は叶いません。装置を使えばあなたの願いは一つ外れた物になりますよ」
薄気味悪くなった村田は奥の部屋に戻ると急いで装置のスイッチを押した
バカバカしい。オレには「けいおん」の4人が待ってるんだ
いつもの様に閃光に包まれたあと目を開けると4人のシルエットが見える
ほらみろと心で思いながら段々とぼやけていた視界がクリアになっていく…
そこに立っていたのはアンディフグ、ピーターアーツ、アーネストホースト、マイクベルナルドの4人だった
村田があっけに取られていると窓の外から喪荷が村田を指差してこう言った
「ドーーーーーンっ!!」
家中が振動したと同時に屈強な4人の肉体が踊り始める
「この出会いはバーニング♪バーニング♪」
昔こいつらが出ていたカップ麺のCMよろしくダンスをし始める4人
村田はパニックになる頭をなんとか働かせながら喪荷の言葉を思い出した
『約束を破ればあなたの欲望は一つ外れた物になる
約束を破ればあなたの欲望は一つ外れた物になる
約束を破ればあなたの欲望は一つ外れた物になる』
どう言うことだ??まさか…これ…
「けいおん」じゃなくて「けいわん」じゃねーか!!
全てを悟った村田の周りを踊り狂うK-1四天王が間髪入れずに村田に強烈な打撃を加えていく
その村田の断末魔を聞きながら
喪荷は夜の街へと消えて行くのだった
「欲望という物はある程度必要ですが、夢と現実の区別はつけなくてはなりません。
どんなに願ったところで人間は魚にはなれませんからね
ほーっほっほっほっ」
次は誰の元に商品が届くのか…
終劇
夢と現実の狭間に… @maxyamada
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます