第19話 ぽっつーん。たった1個。

幼稚園最後の冬休み。

息子にまさかの「自分の名前」を書く宿題が出た。

『うそ~ん。まだ小学生でもないのに?』


幼稚園では、小学生になってから困らないように、ひらがなの練習をしていた事を、卒園文集を見て知る事になる。


宿題のプリントは2枚。

1枚目の右上にはお手本があり、1枚につき10個ずつ書けるようになっており

『宿題やるね~!』

と、息子は初めての宿題を張り切って始めた。



見本とは違う2枚目の紙に書き始めたので、見本、書く紙、見本、書く紙に首がブンブンと振られる。


『見本を見ていなくても、自分の名前は書ける』

と高をくくっていたワタクシ、決まったマスに書くことが、とても難しいと、この時初めて気が付いた。



一つ書いては、曲がったと消す。

一つ書いては、線が長すぎると消す。


こだわりの5歳。なかなか先に進まない。


や~っと、一個目の名前が書き終わった時には、見ているこちらの方が疲れていた。


いやいや、気を取り直して・・・

『さて、続きを!』

と思った瞬間、息子が満足そうに鉛筆を置いた。


『出~来た!宿題終わり!』

耳を疑った。


『え?まだ1個だけど?もう書かないの?』

すると、息子はプリントをワタクシに2枚見せながら、不思議そうにこう言った。


『先生も1個しか書いていないよ。だからイチ君も1個だけ。ほら、一緒でしょ?』


え~そうなっちゃいます? 


息子からの回答に度肝を抜かれた!


『これは、見本。だから、この紙にたくさん名前を書いていくんだよ』

何度説明しても、息子は全く納得せず。


仕方がないので、ぽっつーん とたった1つ書かれたプリントを明けに持たせた。


小学生になってからが思いやられる。

とほほ。



-完-






【m76→19】

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