第7話_カイトの背中

カイトはとっさにシルフィーを含む乗客5人を背負うと、馬車から飛び降りた。

粉々になった馬車が、遠くに落ちた音がした。


「ありがとうございます。あなたがいなかったらきっと私達は生きていませんでした。」

「本当にありがとう!!」

「あなたは命の恩人だ!」


乗客らは口々にお礼を言うと、王都に引き返していった。

皆、商売の仕入れの帰りだったのだが、商品がなくなってしまったために、再び仕入れに戻るのだそうだ。


「私たちは、先に進もうか。」

カイトはシルフィに手を差し出すと、2人は手を繋いで歩き出した。


それから5時間ほどが経っただろうか、日が暮れる直前になってようやく街の明かりが見えてきた。


”ようこそ、マーガレムへ”

街の検問を過ぎ、街路樹のある並木道を抜けると、たくさんの明かりがついた店々が2人を迎える。


「いらっしゃいませー!おいしいハーブ焼肉はいかが?」

「こっちはハーブウインナーがあるよ!どうだい?」

「今夜の宿屋は、ハーブの香り亭でおすすめだよ!」


「ねぇカイト、夕食をいただける宿屋さんを探しませんこと?」

長い時間、歩いたために、シルフィは疲労困憊だった。


「いいよ。では、そこの観光案内所に聞きに行こうか。」


◆◆◆◆◆


「牛肉のローズマリー焼き、とっても美味しかったですわね!」


今晩は、”牛の尾亭”という、食事を部屋まで運んでくれるスタイルの宿を選んだ。

この宿は、お部屋にお風呂がついていて、ベッドの代わりに床に布団をひく”りょかん”という様式だそう。


「疲れたでしょう?お風呂がついていますので、先に入ってください。」


「カイトの方が疲れたでしょう?わたくしは後でよいですわ。


それに、改めてお礼をさせてくださいませ。

今日もお守りいただき、命を救ってくださり、ありがとうぞんじます。」


手を揃え、深く頭を下げると、

カイトが照れ臭そうに、左手で頭の後ろをポリポリ掻いていた。


「そんなの気にしなくていいですよ。ご無事でよかったです。」


「何かお礼をさせてくださる?なんでも言ってくださいね!!」


「うーん、そうですね。では、私の背中を流していただけますか?」


(カイトの背中?見たいですわ!!ではなくて、私ったらなんてはしたない。

殿方の背中なんて、お兄様のものしか見たことございませんもの。

少し恥ずかしいですわ。でも・・・)


「と言うのは冗談ですが、ん?お嬢様?」


(え、冗談でしたの?そんなぁ。。。)

あからさまに落胆したシルフィーに、カイトは笑いを堪えつつ、背中を流すことをお願いしたのだった。


=======

お読みいただき、ありがとうございます。

今後はゆっくり更新させていただく予定です。

引き続き、よろしくお願いします。

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