第6話_隷属の魔法薬
カイトは、目にも留まらぬ速さで、男性の腕を捻り上げていた。
威圧のこもった眼で射るように男性を見ながらも、シルフィを背に隠すと、
腹の底からの低い声を出した。
「なんのつもりだ?」
「すまねぇ、そんなつもりはなかったんだ。実はな・・・」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「兄ちゃん、あんたよく分かってるな!」
よく話を聞いてみると、マーガレムでは人と人の距離が近く、知らない者同士でも肩を組んだりすることがよくあるのだそうだ。
カイトの肩に手を伸ばしたのは
ハーブが薬になることを話していたカイトを気に入ったから。
男性はゲンタという名で、先祖代々続く薬屋の13代目だったのだ。
カイトは過剰に反応してしまったことを謝罪し、ゲンタと意気投合したのであった。
「うちは、ハーブ薬一筋でよぉ、質の高い薬を扱っていると自負しておるのだが、客は香り袋や調味料がないと分かるとすぐに帰っちまうんだ。最近はハーブ薬を買いに来る客はほとんどいねぇ。」
先祖代々秘伝のレシピでできたハーブ薬はとても効果が高いのだが、そのそもの需要が極端に減っているのだそう。
「それは”隷属の魔法薬”の影響でしょうか?」
カイトは遠くを見つめながら1度深呼吸をして、そう尋ねた。
「そうさ、あの忌々しい薬のせいで、薬みんながゲテモノ扱いさ。誰が作ったのか知らないが、本当に迷惑なこって。」
ふいに雨が降り始め、カイトは着ていた上着をシルフィの肩にそっとかけた。
「ねぇカイト、れいぞくの魔法薬ってなんですの?」
「お嬢ちゃん、オレが説明しよう。”隷属の魔法薬”ってのは、相手の行動を意のままに操るとんでもない薬さ。
さらにひでぇのは薬を使われた者が、しっかり意識を保っているということだ。
本当はしたくないことを命令されると、やりたくないのに身体が動いてしまう。
はじめは犯罪奴隷の躾用として作り出されたんだが、こっそり人攫いなんかにも使われるようになったことや、その残酷な後遺症から今は使用禁止になっとる。」
「後遺症とはどんなものですの?」
「心が壊れてしまう病気だとよ。
愛する誰かを殺めさせられたり、子供や妻を奴隷商人に売らされてしまったり、意に沿わぬ相手と夜を過ごさせられたり。
薬が切れたあと自由に動けるようになっても、薬漬けだった時に自分が何をしたかはしっかり記憶にある。そのために多くの者が心を壊してしまい、自害する者がほとんどだったそうだ。
特に有名なのは隣国のフェアリナイトで起こった恐ろしい事件でな、」
そのとき、急に馬車が止まり、御者が叫んだかと思うと急に逃げ出した。
「逃げろ!竜巻だ!」
「キャー、助けて!!」
「シルフィ!!!こちらへ!」
竜巻は馬車を巻き込んで、粉砕しながら巻き上げていった。
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