川谷視点

第141話  エピローグ [川谷 花]


 翔斗が教室から去って行ってから、どれくらいの時間が経っただろうか。


 私は未だ、同じ席に座っていた。


「あ〜、フラれちゃった……」


 教室の天井を見ながら私はつぶやく。


 もちろん、フラれるのはわかっていた。

 覚悟も決めているつもりだった。


 それでも、好きな人から振られると言うのはとても悲しくて、とても辛くて……今更ながら私は、翔斗が負った心の痛みのほんの一部を知ったのだ――


「私が今感じているこの思い以上に、翔斗や美香ちゃんのことを私は傷つけていたんだ……」


 ――好きな人にフラれると言う形で。


「私は、こんな辛い思いを体験もせず、翔斗と友達に戻ろうとしていたんだね」


 お母さんやお父さん、美香ちゃんが言っていたことを本当の意味でわかった気がした。


 私はやっと辿り着けたのだ。


 好きな人を裏切り、自分勝手なことばかりしていた私を変えるためのスタートラインに。


「よし、私も帰ろう」


 翔斗が出て行ってから30分ほど。


 心の整理と共に私は教室を後にした。



 ――――――――――――



「あ、やっと来た」


 私が荷物を持ち下駄箱へと向かうと、背中側から声が聞こえた。


 周りを見ても誰もいない――私に声をかけているみたいだ。


 誰だろう……そう思いながら振り向くと、


「えぇ……」


「やぁ、久しぶり、花」


 そこにいたのは、私が翔斗と付き合っているときに浮気をしてしてしまった相手だった。


「あ、うん、久しぶり。どうしたの?こんなところで」


「いや〜体育祭で久々に花を見てさ、ちょっと話したくなったんだよ」


「そうなんだ。それで話って何?」


 なるべく、会話を増やさないため端的に話を進めていく私。


 それに対して少し思うところがあったのか、少しだけ彼の眉間に皺が寄った。



 …………やっぱり、何か思惑があるんだな。



 この会話の中で私はそう感じ取った。


 単純に話したいだけならこんなところで待つことなんかせずに、体育祭の最中に話しかけてくるだろう。


 と、言うことは……


「それで、急なんだけどさ……やっぱりもう一度俺と付き合ってくれないか。どうしても花とやり直したいんだ。花と別れた後、俺は必死に自分の悪いところを直そうと頑張ったんだ。だから……」


 やっぱり、そう言うことだった。


 あの時と同じ――――翔斗と別れてから改めて直接彼に告白をされた時と同じ言葉の強さ。


 その告白をあの時の私は、とても私のことを想ってくれていると思った。


 だけど今ならわかる。


 この告白も、あの告白も、私が好きだからする告白ではないことを。


 言葉ではそう言っているけど、全く気持ちがこもっていないことを……。



 …………あぁ、私は翔斗に愛されていたんだな。



 忘れようと先程決意したばかりなのにもう思い出してしまった。


 4年間の付き合いの中で翔斗から言われた数々の言葉は、どれも私を想い、私を愛し、私を大事にしてくれていたことを。



 …………本当にバカだな私は。



 何度目かもわからない後悔が生まれる。

 だが、今回は私の胸の中だけにしまっておけそうだ。



「ごめんなさい。私はあなたと付き合うつもりはないの」


「え、でもさっきあの空き教室でフラれてたじゃないか。寂しいんだろう。俺なんかでよかったらその穴埋めてあげるから」


 そう言う彼の目には、私の姿はどこにも映っていない。


「結構です。じゃあ、またね」


 それだけ言って私は校舎を出た。


 背中側から何か声が聞こえるが振り向くことはしない。


 家へと向かう――最近ではすっかり馴染んでしまった30分間の徒歩にて。




 帰り際、私は改めて覚悟を決めた。


 何度も考えを変えてしまうようで少しモヤっとするが、私が翔斗のことを忘れることはやっぱりできそうにない。


 だから、これからはこの翔斗への想いと共に、新しい自分に向けて進んでいこうと決めた。




 ――――――――――――




 〜2年後





「花ってさ全然彼氏とか作ろうとしないよね。この間も告白されているところ私見たし。」


「確かに〜。本当はもう彼氏とかいるんじゃね?」


「それはあるかも」


 大学一年生になった私は、少しずつ自分勝手なところをなくせるようになったきたような気がする。


 実際にはわからない。


 でも、確実に言えるのは今の方が楽しく日々を生きられていると言うことだろう。


「ねぇ〜花聞いてるの??」


「ん?聞いてなかった。ごめん、なんの話?」



 私が通う大学には高校生の同級生は1人もいない。

 いろんな意味で初めてのところからスタートしたかったから。


「だから〜本当は彼氏いるんじゃないのって」


「あ〜いないって」



 あの時とは違うタイプの子とも仲良くなることができ、本音で語り合い、思い合うことのできる友達ができた。



「え〜作るつもりもないの?」


「うん、ないかな……だって」



 だけど、あの時から変わらないものもある。




   「私、好き人がいるから―――」


___________________________________________

141話読んで頂きありがとうございます!


更新遅くなり申し訳ありません。

結構悩んだ末、この話を花のエピローグとすることにしました。


色々な人の考えをこのキャラを通じて知ることができ、ある意味、一番私を成長させてくれたキャラだったのではないかと思います。


様々な思いがこのキャラにはあると思いますが温かい目で見てもらえれば嬉しいです。



話は変わって、総合PVがなんと400Kを超えました!いつも読んで頂き本当にありがとうございます!

ストーリーはこれからも続きますのでこれからもよろしくお願いします!

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