第140話 6月25日 体育祭当日 (下)
審判の右手が高々と挙げられ宣言される。
「一本!勝者……」
畳に背中をつけた僕は、あと一歩のところで優勝を逃した。
さすがは、現役柔道部と言ったところだろう。
清々しいまでに投げられてしまった。
「いや〜危なかった。こんなに腕がいいなら是非とも柔道部に入ってほしいものなんだが、」
そう言いながら僕に手を伸ばしてくれる、名前も知らない対戦相手。
「やっていたのも随分と前のことなので――――あ、ありがとうございます。」
と言いつつ、手を取り起き上がる。
「まぁ、もし興味がまた出たら、いつでも来てくれ!」
その一言の後、お互い礼をして畳から退場をした。
――――――――
3人と合流してからは、凪と美月から合気道だけではなく柔道もできたのかと驚かれ、それに対して美香が自分を守るために!ために!とよくわからない強調を入れながら自慢したりといつも通りの時間が流れる。
優勝できなかったことで期待に応えられなかったかと思ったものの、全くの杞憂だったようだ。
そして、柔道が今日最後の種目だったこともあり、今は歩きながら閉会式を行う場所に向かっていた。
――――――――
閉会式も終わり、体育祭実行委員としての仕事を終えた僕は、花との約束のため例の場所へと向かっていた。
3人には、先に帰ってくれと伝えてある。
美香あたりが何か言ってくるかと思ったが、なんだかあっさりと3人は帰ってしまった。
…………少しだけ悲しい気持ちになりました。
と、感想はさて置いて、例の場所へとついた僕はなんの躊躇もなくその場所へと入る。
そして、教卓の前の席に座っている花を見つけ僕は話しかけた。
「珍しいじゃん。花が僕よりも早くきているなんて」
「まぁ、ここで会うのも最後なんだし、最初で最後のことをやってもいいかなぁて……」
という花の言葉はどこか震えていて、緊張しているように思えた。
とりあえず僕も話せる位置へと、花の隣の席へと移動する。
「それで、話は何かな?」
「うん、ちょっと待って……」
そう言って、花は深呼吸をする。
2人しかいない空間なだけに、やけに深呼吸の音が大きく聞こえた。
30秒ほど沈黙が続いた後だっただろうか、唐突に花は口を開き、
「翔斗、私からこんなこと言っちゃダメだってわかってるんだけど言わせてほしい――」
「やっぱり翔斗のことが好き。私と付き合ってください」
僕に告白をしたのであった。
花から告白を受けた時、僕はあることに気がついた。
それは、この告白が初めて花の方から好きと言われた瞬間だっということだった。
流石にそんなことはないだろうと思い返してみても、必ず僕の方から好きと言い、それに対してありがとう私も好きという返事が返ってくるという流れしか思い出せなかった。
多少は自分から言うのが恥ずかしいと言う思いがあってのことだとは思う。だが、ここまでわかってくると嫌でも思い知らされる。
4年間の付き合いの中で、僕と花の中にある気持ちの重さに……。
それは両思いと意見を合わせていても、片方は丸を想像し、片方は丸に近いが似ても似つかない多角形を想像しているだけであり、決して両思いなんかではない両片思いであったということ。
だからか、僕は嬉しさというのも少しだけ感じた。
タイミングは違うとしても、過去と現在では、丸と意見を合わせ両思いになれたのだから。
僕たちが依存という形で終わらせた4年間にも意味があったということだ。
それは、とても嬉しいことであった……あったが、
「僕は花と付き合うことはできないよ」
だって、僕が丸と意見を言って行ったのは過去であって現在ではないのだから。
「うん。そうだよね……」
答えはわかっていたのだろう、落ち込む様子もなく花は僕に告げる。
「よし、これで私と翔斗の関係は終わり。もう友達に戻りたいとも言わないし、思わない。これからは普通の、ただのクラスメイトだよ」
「そうだね。ただし……幼馴染なただのクラスメイト、だけでね」
それだけ言って僕は席を立った。
これ以上はここに居ても意味がないと思ったから。
先に帰ってくれとは言ったけど本当はどこかで待ってくれているだろう3人のところに僕は向かう。
今は、僕の恋人である凪と美月、妹である美香を幸せにすることが一番大事なことであり、日々丸と言える両思いでいられるよう努力することが大切だと過去の4年間で学んだから。
そんなことを思いながら、例の教室から僕は出て行くのであった。
――――――――――
拝啓〜あの時、3人は待っていると信じていた僕へ、
3人はしっかり僕の家でこたつに入って寝ていましたよっと。
僕はまだまだ努力が足りないみたいです!
家に着いた僕より!
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140話読んで頂きありがとうございます!
カクヨムコン8が始まりましたね!
今年はこの作品ともうひと作品応募させて頂いております。
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