第126話  5月9日 休み明けの騒動




 ゴールデンウィークが明け、4人で学校へ向かっていると高橋くんが声をかけてきた。


「古巻くんおはよう。少し話があるんだけどいいかな?」


 元々どこかのタイミングで高橋くんと話をしようと思っていたから、僕にとっては好都合だった。


「わかった。ごめん3人共、先に行ってて」


 僕は3人と別れ、高橋くんと2人になる。


 どこか場所を探そうかと思っていると、「体育館の方でいいよね?」と言って高橋くんは歩き始めてしまった。


 別にどこで話すにしても内容は変わらないし、何も言わずついて行く。





 体育館前はあまりに人目に付かなそうな場所であった。


 こういうところがラノベでよく使われる告白スポットなのかなとか思いつつ、高橋くんの顔を伺う。


 待つのもなんだから僕から話すことにしよう。


「高橋くんは僕になんの用があったの?」


「それは古巻くん自信が一番よく知っているのではないかな?」


 そう言って僕の顔をにやりとしながら見る高橋くんの顔は、明らかに人を小馬鹿にするような顔をしていた。


 不愉快だ――と思いながらもわざわざ口に出したりはしない。

 こういう目をする人にとって、見下している相手からの不本意な発言は色々と危ないものがあるからだ。


 だと言ってもそう簡単にやられることはないと踏んでいる僕だが、力を振るうのは大切な人を守るときだけと決めているのでなるべく問題は避けるようにしたい。


「丁度僕もこの間の件について話したいと思っていたからいいや。それでこの間の質問の返事なんだけど、僕は2人共を選ぶことにしたよ」


「は?」


 高橋くんから笑顔が消える。

 想像の範囲を超える発言だったのだろう。


「そして、このゴールデンウィーク中に僕はこの思いを2人に伝え、2人はそれに了承してくれた。だから、もう高橋くんが美月に対してアピールできることはないと僕は思うよ」


 少し、挑発的だったか……


「そうか、君はそう答えを出したのか。2人を悲しませるとわかっていながらその答えを選んだんだね」


「なんでそこまで高橋くんに言われなくてはいけないのかわからないけど、悲しませるつもりで2人とお付き合いしたわけではないよ?」


「なんだ、2人と付き合えるようになったからって随分この間と態度が違うじゃないか。やっぱり女ができると強がってしまうのかな?」


 しょうもない煽りだな……


「別にこの間黙ってしまったのは、高橋くんに臆したわけではないからね?同年代の人を怖いなんて思わないし。あのとき黙ったのは、高橋くんが指摘した通り僕は2人のことを考えてなかったからだよ。自分自身が情けないと思い、黙っていた。それだけ」


「!?ま、まぁいいさ。これで終わりだと思うな。武力だけが怖さではないんだよ――」


 それだけ言って高橋くんは教室へ向かっていった。


 誰かと付き合うというのを、友達でもない人に報告をするというのはよくわからないことではあったけど、何故か心にスッキリするものが僕にはあった。


 理由はわからないが、二股をして行く中で苦労することの第一歩を踏み出したのだと感じた。



 ―――――――――

 ゆっくり教室へと向かうと、騒がしいことに気がつく。


 高橋くんが何かしらしたんだろうな……そう思いつつも入らないわけにも行かないので僕は教室に入った。


 扉を開けた途端、向けられる非難の目。そして心配そうに見つめる2人の姿が目に見えた。


 とりあえず安心させてあげようと2人のところに行こうとした時――


「古巻くん流石に二股はやばいでしょ。そう思うだろうみんな?」


 高橋くんが聞くと、みんな賛同する様に声を発する。


「そうだよ……流石にそれはないわ」


「てか、そんなやつだったのかよ古巻って。前から2人と仲良かったと思ってたけどさ」


「羨ましい……」


「あり得ないんだけど、マジで……」


 1人だけなんか違うのが混じっていたが、クラスメイトでよく高橋くんと連んでいる男女数人から非難の声を向けられる。


 どんなことを言われても覚悟はできていると思ってはいたけど、やっぱり大なり小なり責められるというのは心にくる物があった。


 それでも、自分が決めたこと。これしきのことですら乗り越えられないようじゃこの先やっていくことなんてできない。


 だからこそ、僕はみんなの発言を受け止めていた。


「てか、そんな最低なやつとよく付き合おうと思うよな」


 高橋くんが僕ではなく2人の方を向いて言った。

 その瞬間を待ってましたと言うように高橋くんの近くにいる女子が追撃を行う。


「ほんとだよ。いつもいつも偉そうにしてるけど、ざまーないよね。こんなださい彼氏なんか作っちゃって、二大美女とか聞いて呆れる」


「たしかに」


「ださ〜」


 まさか、こんなにひどく2人に飛び火するとは思ってもいなかった僕は、少しばかりどうしようかと思案する。


 あらかじめ2人とは話をしていて、こうなった場合、2人で解決するから気にするなと言われていたのだ。


 こう言う時にこそ守るべきだと思うのだが、2人がそれを望んではいないため僕は約束の方を優先する。


 2人が僕を信じてくれるように、僕も2人を信じたいから。


 そう思っていると、高橋くんが僕の方に近づいてきた。


「ほらな、散々な結果になっただろう」


 その顔は勝ち誇ったような顔。


 だが、これっぽっも負けていると思わないどころか、勝負している気もない僕からしたらなんのこれしきという感じだった。


 だからこそ――


「散々な結果なのかな?別に僕は後悔してないよ?それに、2人にもそこまでダメージは与えられていないと思うな」


「は?何言って――」


「ほら、」


 そう言って高橋くんの言葉を遮り、2人のことを見ると、2人は笑い始めた。


「あはは、凪ちゃん聞いた?二大美女が聴いて呆れるだって」


「私も聞いたよ美月ちゃん。別に私達、自分から二大美女なんて言ったことないのにね。それに、私たちの彼氏がださいだって。そもそも高橋くんと一緒にいる女子が翔斗くんの良さなんてわかるはずがないと思うのだけれど」


「本当にその通りだよ。まず高橋くんが好きなんだったら、私たちや翔くんに構わずもっとアピールするべきだと思うけど??高橋くんの意見に乗っかるだけだと結局今のまま変わらないと思うし」


 たったそれだけで、クラスは静まりかえった。

 僕の手は必要としない――その意味がよくわかる瞬間だった。

 頼もしいと思う反面、なんだが悲しい気持ちに襲われる。


 ………………僕は、一応2人の彼氏なんだけど。


 って、そんなことはさておいて、まだやることが僕にはあったんだった。


「高橋くん。高橋くんが僕たちにどんな嫌がらせをしようと僕たちの決意は変わらない。特に僕は変わらないよ。だから申し訳ないけど美月のことを諦めてください」


 それだけ言って僕は高橋くんに頭を下げた。


 他から見たら煽っているように思えるかもしれないが、僕はいたって真面目だ。


 少なからず、このような結果になれたのは高橋くんのおかげでもあるのだから。


「……るさい。うるさい!お前は俺のことを馬鹿にしているのか!!」


 高橋くんの大声で僕は頭を上げる。

 殴られるのかと思ったもののそれはしないらしい。

 なんだかんだで冷静な高橋くんである。


「俺は認めない。俺は今までどんな女でも自分のものにしてきたんだ。それも、相手から好きになってもらうという形で……」


 …………どうしてこうも顔が良い人は性格が悪いのだろうか。

 一つ年上のあの人のことを僕は思い出してしまった。


「俺は認めない。俺に振り向かないで、こんな男に振り向くなんて――そうだ、そもそも日本では重婚は犯罪だ!それを、それを知っていながらも古巻はこの2人を幸せにすると言っているのだ。もう犯罪だ、これは犯罪だ!!!」


 もう、言い掛かりをつけられるならなんでもありなんだなと僕は思う。

 結婚をしたいと思ってはいるけど、そこまで先のことなんて考える余裕が僕にはないのだ。


 確かに、重婚は犯罪だ……どうしよう。


 今更ながらに僕は高橋くんからダメージを負ったのだった。


 そんなことを思っていながらも、決して油断だけはしていなかった。


 先程から徐々に高橋くんの目つきが危ない方向へと進んでいるのだ。


 もし、美月に、凪に何かするつもりなら僕は容赦なく高橋くんを倒すつもりだった。


 しかし、僕が何かするまでもなく高橋くんは黙ることになる。


 それは、今まで我関せずと言った形でスマホをいじっていた意外な人物の発言によるものだった。




「あのさ、もうその心配もいらないんじゃないかな??」




 そう、川谷花の一言によって――。


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