夜光視点
第91話 1月25日 自立をすることになりました
私のお父さんは夜光建設と言う建設業を営む会社の社長をやっています。
夜光建設は日本の大手建設業に名を連ね、お爺ちゃんの代では海外進出まで始めた大きな会社です。
お父さんが会社を受け継いだ時には、初めて数年しか経っていないにも関わらず、日本と海外の案件数が五分五分になっていたらしく、近々本社を海外に移す企画まで出ているらしいのです。
最近お父さんが家にいない事が多いのは、本社を海外に移す件が決まり、候補に上がっていた本社場所を視察に行っているからでした。
この間翔くんとお泊まりをした時も、運の良いことにお父さんは視察の為、海外に行っていました。
朝、リビングに入ろうとしたところで、お父さんとお母さんの話し声が聞こえます。
昨日の夜ご飯の時はまだ帰ってきては居なかったので、私が寝た後に帰ってきたみたいですね。
「あなた、それは美月のことを考えて言っているのかしら」
「考えて行っているさ。これが最善な手段だと考えているよ」
ドア越しに聞こえてきた話の内容で私は開けようとドアノブに伸ばしていた手が止まりました。
(何の話をしているのだろう。私が何を考えるのか……私が決める事とはなんだろう)
頭の中でいっぱい疑問が生まれていきます。
そんなことを思っていると、入るタイミングを逃してしまいました。
「美月、そこにいるんだろ。影で見えているよ。入ってきなさい」
お父さんからは丸見えだったようで声をかけられてしまいました。
「お帰り……ごめんね、なんか入るタイミング逃しちゃって」
「あぁ、ただいま。それはいいからちょっとこっちに座りなさい。お話がある」
やっぱりお話しするよね……
「うん……わかった」
私が席に座ると、お父さんは先にお土産を渡してくれました。
「とりあえずこれお土産。食べながらでもいいから話を聞いてくれ」
こんな真剣な顔されて食べながらきかけるわけないじゃん。
お父さんのこう言うところは本当に馬鹿だと思う。
「それで?話というのはお父さんの仕事の話だよね?」
「そうだな。単刀直入に言うとな会社の本社が台湾に移ることになった」
「あ、台湾になったんだ!まだ日本に近くてよかったね」
心の中でそんな事かと私は思いました。
流石の私だって、お父さんが自ら海外に足を運んで視察に行っていることからお父さんが移動となることは予想がついていました。
お父さんとずっと一緒に居たいとまでは思わないけど、会えないぐらい遠い場所に行かれるのは少し寂しいです。
「そうだな、私も近くてよかったと思う。だが、私の話はこれで終わりではない。美月、私は家族で台湾に移住しようと考えている。先程、お母さんとの話のやりとりもこの内容だ」
お父さんから言われたことに私は頭が真っ白になった。
翔くんと離れ離れになる?遊べなくなる?会えなくなる?
「嫌だよ」
何も考えず私はお父さんの考えを否定していました。
私の即答にお父さんも目を丸くしているし、お母さんもほらね?っと言うようにお父さんのことを見ています。
私はやっと理解しました。
先程お父さんとお母さんが話していた内容を……。
「なぜ嫌なんだ、今の高校がそんなに好きなのか?」
「うん」
面と向かって好きな人がいるからとか言えるわけがありません……。
「でも、高校なら台湾にだってあるだろう」
「話聞いてた?今の高校が好きって言ったよ?」
私が少し強めに言うと先程から黙っていたお母さんが口を開きました。
「美月、お父さんに本当のこと言わないで嫌だと言うなら私はお父さん側に着くわよ?」
お母さんがお父さんに着くと私の勝ち目はなくなります。
ここは私が引くべきなのかもしれません。
「そうだね……お父さん、私がついて行きたくないのは今の学校に好きな人がいるからなの」
「な、何?す、好きな人がいるだって?この間はいないって言ってたじゃないか」
「あれは……うそ」
「お、おい美咲、知ってたのか?」
すごい圧力でお母さんに話しかけるお父さん。
お母さんの顔がとても面倒臭そうです。
「だから言ったでしょ。美月は反対すると思うわよって。決めるのは美月にしっかり聞いてからにしなさいって」
「うぅ……それなら言ってくれればよかったのに」
「それは美月の口から言うことでしょ。私から聞く話ではないわ」
その通りだと私も思いました。
そんなことよりも、
「お父さん、私にとっては初めて好きになった人なの……だから家族と離れ離れになったとしても私は今の学校に通いたいし、ここに残りたい」
「んん〜〜」
私がとてもわがままを言っていることはわかっています。
将来を共にできるかもわからないのに家族と天秤にかけ、私は好きな人を選ぼうとしているのですから。
本当に申し訳ないと思いますが、それほど私は翔くんのことが好きなのです。
お父さんの方を見ているお母さんが今度は私の方に体を向けました。
何かを言いたいようです。
「美月、私は美月が残りたいと言うなら残って良いと思っているわ」
「え?いいの?」
「おい、美咲。何を勝手に……」
お母さんはお父さんの言葉を遮ってさらに話し始めました。
「でも、残ると言うならそれは自立と言う形でやりなさい。もちろん好きな子の家に転がり込むなんて許さない。
まだ高校生だし大学も行くだろうから最低限の援助はするわ。美月が住む家の家賃などは高校生の間だけは払ってあげる。1ヶ月事に決まった食費も送るわ。
だけど、そのほかは一切やらない。洋服とか欲しいものは自分で働いて買いなさい」
お母さんから言われた言葉に私は何も言えなくなりました。
自立なんてできないと思ってしまったから。
私は今の今まで何不自由ない生活を送れていました。
家事などはお母さんがしてくれて料理以外手伝った事がありません。
洋服だってお父さんからもらったお金で買っていましたし。
私はお母さんに言われて、翔くんと一緒にいる為の道がここまで険しい事を知りました。
私に出来るだろうか……マイナスな考えが頭の中をいっぱいにしていきます。
私の目線は自然と下を向いていました。
「美月、それほどの決意で私たちと離れると言っていたのならその子は諦めて私たちに着いてきなさい。
何かを得ようとするには何かを失わないといけない。
お父さんだけ台湾に行って私が美月のために残ってくれると思ったら大間違いよ」
お母さんの言う通りです。
「そうだね……私が馬鹿だった」
出来るのだろうかではないのです。
好きな人のためならやらなくてはいけないのです。
「なら、美月。一緒に台湾に行って……」
「あなたは、「お父さんは黙ってて!!」」
「あ、はい……すいません」
私は決めました。
いや、答えなんて最初から決まっていたのです。
多分これはお母さんからの手助けだと思いました。
好きな人のために全力で努力できるパーツをバラバラな状態で渡してくれたのだと思いました。
本当に私のお母さんはすごいと思います。
もちろんお父さんもです。
私はひと呼吸置いてからお母さんに話しかけます。
「お母さん」
お母さんは無言で私の言葉を待っています。
「私、ここに残る」
私の目を見てお母さんは聞いて来ます。
「自分でやって行くってことね?」
もう迷うことなんてありません。
ここまでしてもらえたのだから、私は頑張るだけです。
「うん!それぐらい出来ないと振り向いてだってもらえないと思うし、私のこの思いを私自身が無駄にしたくない」
私の決意を聞いて、お母さんはとても美しい笑顔になりました。
「わかった。なら私は応援するわ。
多分4月から私たちは移ることになりそうだから、それまではこの家で家事を手伝いながら覚えていきなさい。
あなたもそう言う事だから、これ以上文句言うなら私もついて行かないけど……」
「娘がここまで言っているのに、反対なんてできないよ。美月、そうと決めたのなら頑張りなさい」
「うん。お父さん、お母さん私のわがままを聞いてくれてありがとう。私頑張るから」
私は4月から自立をすることになりました。
多少の不安はありますが、翔くんの為なら頑張れます。
それぐらい私は本気なのです。
自分で自分を奮い立たせていると先程とはまた違ったトーンでお父さんが話しかけて来ました。
「それで、美月が好きな子とはどんな子なんだ?もちろん、私に合わせてくれるよな??」
逃れる事ができないやつだと思いました。
チラッとお母さんを見ても、すぐに目を逸らされてしまったので……。
親に好きな人を、特にお父さんに話すと言うのはいつまで経っても女子は嫌だと思います。
ソースは私です。
この言葉いつか翔くんの前で言ってみたいです。
いやこれよりも、「今の美月的にポイント高いかも」このセリフを言いたいです。
案外、凪ちゃんとか言いそうなセリフですね……私と一緒でこのラノベを今読んでいるそうなので。
「わかったから……そんな顔で見つめないで」
私は諦めて翔くんのことをお父さんに話すことにしました。
___________________________________________
91話読んで頂きありがとうございます!
夜ちゃんも?と思う人多そうですね笑
こんなの現実ではあり得ないだろう。
実際に私もそう思いますが、無いとは言い切れないですよね。
わかりません。
ないと言い切れる人がいるかもしれませんので私個人の意見とさせて頂きます。
コメント、応援、いつもありがとうございます!
小説のフォロー、レビュー、して頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます