予告手帳

潘ゆうり

1話(完結)

夜勤から帰宅し、テレビをつけた。

時刻は7;46

朝のニュースが流れていた。



【昨夜、イタリアの旅客機 ボーニング712がイタリア北部にあるスターナの山中に墜落しました】



…………え?



【もう一度お伝えます。昨夜日本時間21;16頃、乗客乗員 124人を乗せた旅客機 ボーニング】



…………え、ちょっと待って。もしかして、これ



【乗客の中にはFIFAクラブチーム、ユナイテッドローズの選手、監督、スタッフを合わせた30名も乗り合わせていたもようです】


あ………


【……墜落現場の上空からの映像です。見えますでしょうか、壊れた尾翼の部分にはっきりと書かれたボーニン】


ブツンッ


ヘリコプターによる現場の状況が映し出された瞬間、突如恐怖心に襲われ急いでテレビを消した。


「もしかしてまた…」


私はすかさず机の引き出しから一冊のノートを取り出し、開く。


日付を遡ると[それ]は1週間前の記録として直ぐに見つかった。




《9月16日》


今日はイタリアにいた。しかも、山中にある有名な巨大像の近くで暮らしていたからかなり田舎だと思う。




9月23日の13時過ぎ、私の近くで飛んでいた旅客機が、操縦室を下にしてまっ逆さまに落ちた。爆発音と共に火の手が上がり、私は一目散に逃げた。




急に場面は切り替わり、私はテレビを見ていた。


ニュースで、イタリアの旅客機が山中に落ちたことを伝えていた。そこにはサッカーのユナイテッド?なんちゃらっていうチームの選手と監督、スタッフが30名乗っていたらしい。


乗客 乗員 合わせて124人。全員死んだ。




いつもにまして後味が悪い夢。


これは現実には起こらないでほしい。








……殴り書きで、でもしっかりと最後まで書かれていた自分の日記を下まで読み終え、全身から血の気が引いていく。




「日本時間で21時台ならイタリアは13時台…時間まで合ってる…」




さっきテレビで伝えていた内容と、墜落現場の映像が私の夢の記憶と一致していた。


平常心を保てなくなった私は、携帯電話を手に取り思わずある人物に電話をかけた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━




『……………これで何度目なのか、自分でも分からないの。この何年か、見た不幸な夢が全部現実に起きてて…寝るのが怖い』




「それで?」




『勇也はどう思う?やっぱり専門の人に相談した方が良いかな』






「………………ぶわははははははははは」






電話の向こうの勇也は、私の話を聞き終えると途端に噴き出し大声で笑い出した。


耳の内耳が軽い鈍痛を起こすほど笑う勇也に、私は若干苛立ちを覚えた。




『ちょ、うるさい。そんなに笑うこと?』




「お前さぁー、前から予知夢がー予知夢がーって念仏みたいに言ってるけど、そんな心霊現象みたいなこと、この世にはねえからな?


夢ってのは脳に残ってる潜在意識によって起きるんだよ。だから、今日まで起きてきたことは全部お前の妄想。たまたまだよ、たまたま」


『……なにそれ。何でそう言い切れるの』




茶化しながら自信たっぷりに小学校低学年並みの持論を展開する勇也に、私の気持ちは苛立ちを越えて諦めの境地に変わっていた。




「だってそうだろ。玲夢、お前頭おかしいんじゃねえか?」




(話さなきゃ良かった…)




『……もういい。あんたに話したのが間違いだった』




そう一言だけ言い切り電話を切って携帯電話をベッドの上に投げ捨てた。




(何であんな奴と付き合っちゃったんだろ……)




今日ほどそれを後悔した日はない。


予知夢への恐怖と、彼への怒りと呆れと夜勤明けの恐怖が全て入り交じり、感情がグチャグチャになっている。




すると突如、ベッドの上から振動が鳴った。


携帯電話だった。




「誰だよ」




苛立ちながら投げ捨てた携帯電話を拾いにベッドまで近寄ると、ディスプレイに




【勇也】


の文字で着信していた。




まだ彼にご立腹だった私は画面を見ながら電話に出るのを躊躇するが


このまま気持ちが晴れずにスッキリしないで終わるのも嫌だったので、さっき言い足りなかったことをぶちまけてから別れを告げてやろうと企んだ。






『…もしもし、なに?』




怒りを露にした投げやりな口調で電話に出ると




「……さっきは悪かったよ。お前がそんなに真剣に悩んでるとは思わなかったから、つい軽々しくあんなこと言っちゃって」




…予想外だった。


先ほどとは打って変わって急に潮らしくなった勇也の声に、さっき別れを告げようと企んでいた私の気持ちに一気に動揺が走る。




『……どうしたの。そんなに素直に謝られると、それはそれで困るんだけど…』




「本当ごめん。お詫びになるか分かんないけどさ…今から朝飯行かないか?俺今日休みなんだ。全部奢るよ。そこでゆっくりさっきの話しよう」




『え、今から?』




「あ、夜勤明けだから眠いか?」




『いや、それは大丈夫だけど……』




優しい口調と急な誘いにますます動揺する私。


勇也が全部奢る宣言をするなんて…悪いことが起きる予兆じゃないだろうか……




「それなら、今から迎えに行くわ。待ってて」






そう言って電話が切れた。




『……なにこれ?』




急な展開に状況が読み込めなかった私は、少しの間考え込んだが




(ちょっと不気味だけど…まぁ謝ってくれたからいっか)




我ながら甘いとは思いつつ、とりあえず[迎えに行く]という勇也の言葉を信じ乱れた服装や髪型を整理し直した。




…………………




部屋の中をひととおり片付け、最後にテーブルの上に置きっぱなしだったさっきの[夢ノート]を机の引き出しにしまおうと手にした




その時




(…………ん?)


突然、脳裏にある記憶が蘇る。






『……………………え……?これって……』






『…………………………………………!!!』






私は急いでノートを開きページをめくった。




めくっているうちに目に飛び込んできたのは2週間前の日記。




『……………………』






……全て読み終え、私は段々と震え始める右手を左手で押さえながら直ぐに勇也に電話をかけた。




truuuuuuuu....




truuuuuuuu....






早く……早く出て……




祈りも虚しく、しばらく着信音が鳴り続いた後に電話が切れた。




ディスプレイには【応答なし】の文字が表記される。




『もう向かっちゃってるのかな…』




呼吸が浅くなり、苦しさでじっとしていられなくなった私は携帯電話を持ったまま玄関に走りドアを開けた。




外を見ると、マンションの向かい側にある道にバイクに乗って信号待ちをしている勇也の姿が見えた。




『勇也……!!』




すぐ近くまで来ていた勇也を見つけ、慌ててもう一度携帯電話から着信ボタンを押す。




truuuuuuuu....




truuuuuuuu....




『勇也お願い気付いて!!』




私は信号待ちをしている勇也に向かって大声で叫んだが、装置しているヘルメットのせいか声が届かず気付く気配すらない。


とうとうパニック状態に陥り、着信を鳴らしたまま3階のマンションの階段から1階に向かって走っていた。




『間に合って、お願い間に合って!』






ようやく1階にたどり着きマンションの外に出た時、まだ信号待ちをしている勇也の姿が目に入り道路に向かって走り出した。






『勇也ダメ!渡らないで!』




走って近付いてくる私にようやく気付いた勇也は、ヘルメット越しにニカッと笑い片手を振っている。


しかし次の瞬間、笑顔が瞬く間に消えていった。






ほんの一瞬、数秒間の出来事。






トラックの激しいブレーキ音と周囲の悲鳴が、私の最期の記憶となった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《9月10日》


勇也と電話をしてて、幽霊は居る、居ない論争で本気で喧嘩して私が怒って一方的に電話を切った。


お前頭おかしいんじゃねえか?とまで言われて胸糞悪い…


でももっと胸糞悪いのはこの後




私が別れようかなって考えていると勇也からまた電話が来た。


渋々電話に出たら、急に優しい口調に変わってて、さっきまでのことを全部謝って来た。


それで、夜勤明けの私に朝ごはん行こうって誘って来たうえに、俺が奢るとまで言ってきて…。マジで嫌なことが起きる予兆じゃないかって疑ってたら


私を迎えに来る途中、勇也がマンション前の道路で信号無視で横から突っ込んできたトラックに轢かれたという訃報が入った


…そこで怖くて目が覚めた


前半は良かったのに後半は悪夢……


最悪な夢








━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「勇也くん、それは?」




「死んだ彼女の夢日記。彼女の両親から借りてきた。あの日の記録をどうしても確認したくてさ」




「……そう」




「予知夢って、自分の身の回りに起きることならある程度回避出来るんだよ。なのにこいつ…」




「……だから勇也くんは同じ夢を見たのに助かったの?」




「俺はもう夢に囚われずに生きることにしたんだ。意識しすぎると、こいつみたいに痛い目に遭うからな」










...END....














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