第117話

 招待状をお城に届けた帰り、兵士の詰め所で見てしまった見た事も無い物。

 きっとそれが防衛の穴と思われる部分を埋める物でしょう。

 しかし私はパルサー様に報告をしないでいます。

 言えば必ず調べろと言われますし、万が一にもスパイまがいの事をして見つかった場合、ディアマンテ龍王国とエルグランド王国の関係に影響します。


 戦争は……嫌です。


 翌日からも何かと用事を言いつかりお城に向かわされます。

 これだけ毎日お城に行くものですから、すっかり門番さんやメイド、執事さんと仲良くなってしまいました。


「随分と皆と仲が良いようだな。なのになぜコルトとは仲が進展しないのだ?」


 バルコニーでアウトランダー陛下へいかとコルト第三王子とお茶をしていますが、そんな事は決まっています、コルト様は私の事を嫌っているからですよ。

 最初からそうでした、初対面にもかかわらず終始不機嫌そうで、陛下へいかが気を利かせたつもりで二人きりにされると沈黙。

 何とか会話を振っても空返事。


 ここまで嫌われたのはリーフ様第五王女以来じゃないかしら。


「さあなぜでしょうか。私にはわかりかねます」


 コルト様が私を嫌っているから、などとは言えないので適当に誤魔化します。

 というよりも陛下へいか、今不貞腐ふてくされているコルト様の様子を見て判断してください!!


 相変らずコルト様との関係を進めようとする陛下へいかでしたが、コルト様のあからさまな反応を見て考えを変えようとは思われないのでしょうか。

 何とかお茶会が終わりお城の中を歩いていると、兵士達がゾロゾロと歩いてきます。

 あら? 何か筒のような物を肩に担いでいますがあれは……⁉

 兵士の詰め所にあった見たこともない何かだわ!


 え? え? お城の中で普通に持ち歩いて良い物なのですか?

 しかも兵士の数名は門番もしている人です。


「やぁシルビアちゃんじゃないか。今日も国王陛下へいかとお茶会かい?」


「はい、いつもの様にアウトランダー陛下へいかとコルト様の三人でお茶をいただきました。今から訓練ですか?」


 普通に話かけてきました! ソレは軍事機密ではないのですか!?


「そうなんだよ~、今から鬼上司との訓練さ。まぁ剣よりもコイツは楽だからいいけどな」


 そういって肩に担いでいる筒を手で叩きます。

 ま、待ってください、そんな事をされたら聞かずにはいられませんよ!?


「そ、それは何ですか?」


「これはタンネンベルク・ガンっていうん――」


「おいバカ! そんな事までしゃべるんじゃない!」


「あ、っと、悪いねシルビアちゃん、こいつは秘密だ。見なかった事にしといて」


「わかりました。おしゃべりな門番さんなんて居ませんからね」


 しかしその程度の注意で終わり、手を振ってお別れしました。

 タンネンベルク・ガン? 木の棒と鉄の棒がくっ付いていましたが棍棒のたぐいでしょうか?


 とはいえ困りました、こんなに簡単に名前と形が分かってしまいました。

 どうやって誤魔化しましょうか……


「お帰りなさいシルビア。今日は何かいいことがあったのではありませんの?」


 大使館に戻ると早速パルサー様がいらっしゃいました。

 毎日の事なので慣れましたが、王族が毎回お出迎えなんてどうかしています。


「ただいま戻りましたパルサー様。今日もコルト様のご機嫌はナナメでした」


「今日も不機嫌なのね。それで兵士達とはどうなのかしら? 随分と仲が良さそうに見えましたわ」


 やっぱり誰かがあの場にいたのですね。

 つまりソレがどういう形かくらいはご存じなのでしょう。

 とはいえ簡単に言う訳には行きません。


「訓練が大変だとぼやいておいででした」


「ふぅ~ん。何か新兵器とかは使っていませんでしたの?」


「新兵器……そういえば木の棒と鉄の棒がくっ付いた物をお持ちでした」


「あらそんなものがあるの? 何という名前なのかしら」


「確か「たんねんべるくがん」とか言っていました」


「たんねんべるくがん……そう。木の棒と鉄の棒がくっ付いていてどう使うんですの?」


「さぁ私にはなんとも」


「それもそうね。お疲れ様、仕事に戻ってよろしいですわ」


 今日も何とかやり過ごせました。

 あのご様子ならタンネンベルク・ガンの形はご存じだったのでしょうが、新情報として名前が判明したといった所でしょう。

 それにしても私、どうして王族とこんな駆け引きをしているのでしょう。


 もっとこう、国の為になる話なら喜んでするのですが。

 あ、一応は国のため、になるのでしょうか。

 それにしても兵器の情報をあっさりと漏らす兵士なんて……いえ、もう必要のない兵器だから……なのかしら。

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