第111話

 ディアマンテ龍王国に向かうため馬車に沢山の荷物を積み込みます。

 最長で半年はかかるそうなので、荷物だけでも大きな馬車が数台必要になってしまいます。

 ……私の荷物は大きめのトランクケース一つですけどね。


 サファリ様と側室のキャラバン様、パルサー様が豪華な馬車に乗り、私や護衛は荷物を積んである馬車の隙間に座ります。

 馬車といえば貴族の領地を転々としていた時を思い出しますね。

 今回はお尻にダメージが入らないように、厚手のクッションを用意してあるから大丈夫でしょう。


 ディアマンテ龍王国は馬車で一週間かかるので、盗賊や天候に気を付ければ平穏無事にたどり着くでしょう。

 それで途中一度だけ盗賊に襲われたのですが、サファリ様が張り切り過ぎて護衛が何もできない、という事がありました。

 怪我が無くて良かった。


「おお、あれがディアマンテ龍王国じゃないか?」


 御者さんが前方を指さして声を上げます。

 私や護衛達は立ち上がり荷物の上から顔を出すと、前にはオレンジ色のお城が見えてきました。

 お城は尖塔せんとうが沢山あるタイプではなく、巨大な砦のようで全体がオレンジ色に塗られています。


「まるで砦のようなお城ですね」


「そういやぁディアマンテ龍王国の城は、いつ龍が来てもいいように屋上をとても広くしているって聞いたな」


 護衛の一人が教えてくれました。

 なるほど、そんな理由があって尖塔タイプではなく砦タイプなんですね。

 本当に龍がいれば、ですけど。


 その後は入国の手続きがありましたが、パルサー様のお陰でとてもスムーズに入る事が出来ました。

 連絡が入っていた事もありますが、パルサー様が信頼されている証でもあります。


 入国後はパルサー様が住んでおられるお屋敷に向かい、荷物を運び入れます。

 それにしても王族の別荘というのは大きいですね、エルグランド王国の公爵のお屋敷程の大きさがあります。

 その日は早くに休み、翌日は早速ディアマンテ龍王国の国王との謁見です。


 さて私はメイドなので行く必要はありま――


「シルビア、他人事ではなくてよ?」


 そうパルサー様に言われて馬車に放り込まれました。

 はぁ、やはり私も行くのですね。

 正装をした皆さんと同じ馬車に乗るなんて、恐れ多い上に服装の違いで私が浮きまくっています。


 ディアマンテ龍王国は龍をあがめているだけあって、あちこちに龍をかたどった紋章や絵が描かれています。

 龍といっても色々な形をしているのですね。


 驚いたのは、龍が存在していた証明として博物館が作られていた事です。

 パルサー様によると昔は資料や絵画の展示のみでしたが、最近は発掘された化石が展示されているとか。

 それを見に来る観光客がかなりの数になるそうです。

 私も一度見に行きたいですね。


「さあ着きましたわ」


 王城はやはりオレンジ色ですが、これは伝承にある龍が赤色なので最初は赤色だったそうです。

 それが色あせてオレンジ色になったんだとか。

 あ、国旗は四つんばいの首の長い龍が書かれています。


 お城に入ると一旦控室に入り、一服しようとしたらすぐに呼ばれました。

 どうやら国王様は首を長くしてお待ちだったようです。

 案内されて謁見の間に入ると、いきなり目の前には巨大な布がぶら下げられており、五種類の龍が書かれています。


 布を迂回して進むと赤い絨毯の先、壇上にある玉座に足を組んで座っている人がいます。

 赤い絨毯の両脇には数名の男性が立っています。


 パルサー様の後を付いていき、壇上の手前で止まりスカートを両手で軽くつまんで膝を曲げ腰を折ります。

 サファリ様は右腕を胸の前でまげて軽く腰を折る。

 姿勢を正すとパルサー様が挨拶を始めました。


陛下へいか、エルグランド王国よりサファリ、パルサー及び、キャラバン、シルビア、到着しました」


「うむ、よく来てくれたな皆のもの。ワシがディアマンテ龍王国の国王、アウトランダーである」


 赤毛を逆立て濃い眉毛も炎のように上に向かっている。

 微笑んでいますが、あまりに目力が強いので思わず目を逸らしたくなります。

 二メートルを超える巨体と格闘家のような体型。

 真っ赤な全身金属鎧を纏い、肩当には赤いフカフカが付いている。

 歳は五十を過ぎているでしょうか。


 儀礼的な挨拶が進み、いよいよ本題へと入ります。


「それでパルサー、お前は龍を見つけることが出来るのか?」


「見つけるという確約は出来ませんの。しかし何らかの成果を出すつもりですわ」


「うむ~、なにせ建国から五百年間探し続けているが、見つかったのは化石のみであるからな。見つけると言われても逆に信用はできん。なのでパルサーのげんは信頼に値する」


「ありがとうございますわ。兄共々、陛下へいかのご期待に沿える様に努力いたしますの」


「うむ、よろしく頼むぞ。それで? そこのメイドがシルビアか?」


 私を睨むように見てきます。

 こっ、これはアベニール辺境伯よりも威圧感があるわね。体も大きいし。

 パルサー様がスッと私の隣に立ち、腕を絡ませます。


「ええ、この子がシルビアですの。陛下へいか、その様に睨まれては怯えてしまいますわ?」


「おお! いやっはっはっは、これはすまんな」


 愛嬌よく笑っていますが、睨むのはやめてくれましたが圧はそのままです。

 パルサー様にコツンと靴を蹴られたので、怖いのを押し殺して挨拶をします。


「お目にかかれた事、光栄に思います。ご紹介に預かりました通り、私がシルビアです」


「おおぅおおぅおおぅ! なんだなんだメンコイおなごではないか! 王族を手玉に取るというからもっと妖艶な女だと思っておったわ!」


 そりゃ妖艶とは無縁ですとも!

 こんな貧相な女が手玉にとれるはずがないでしょ!

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