第109話

 サファリ様を鍛え始めてすでにひと月。

 いえたったのひと月です。

 剣術の腕は騎士団の副団長クラスとなり、政治においても意外なほどに知識を持っていました。


 どうやら遊び惚けていた間も入ってくる情報を全て整理していたらしく(無意識に)、市場価格の推移や他国のウワサ、旅人から色々と話を聞いていたようです。

 なので私が知っている情報と同等か少し少ない程度の情報を持っていました。


「驚きました、元々優れている人は無意識に凄い事をやっているのですね」


「へへん、どうだい驚いたかい?」


「ええとても。これで心置きなく授業を進められます」


「え? もう終わりじゃないの?」


「今の情報を持っているだけでは意味がありません。それをどう活用するか、どのように読み解くかを始めましょう」


「ふぁ、ふぁ~い」


 それから更にひと月が過ぎました。

 サファリ様は何度かくじけそうになりましたが、その度に叱咤しったし、飴を与え、時には甘やかせました。

 その結果……


「マム! 指示された任務終了しました! 次の指示をお願いします!」


「早いですね。午前中で全て終わらせたのですか?」


「マムの指導があれば当たり前です!」


「そ、そうですか。では午後からは自由行動としましょう」


「サーイエッサー!」


 昔読んだ本に書かれていた内容、人心掌握術とか書かれていたはずですが、これではまるで洗脳です。

 でも外で自由に行動できますし、何かを強要はしていないので違うはずです。

 それに任務(?)が終われば普通に会話をしてくれます。


「じゃあシルビア、僕とデートしようデート」


「デートですか? 私にも仕事があるのですが……」


「僕の身の回りの事でしょ? 大丈夫、他の人にお願いしておいたから」


「手回しが良いですね」


「えへへ、ありがとう」


 今のは褒めたわけではないのですが。

 しかし仕事を終わらせたご褒美を上げないといけませんし、たまにデートするくらい構わないでしょう。


 デート……デートってこういうのでしたっけ?

 街中を走り回り、かくれんぼをし、疲れたら買い食いをして。


「なんだか子供のようなデートですね」


「シルビアは子供のころにデートした事あるの?」


「私は五歳からメイドをしているので、デートをする暇なんてありませんでした」


「そ? じゃあ今日はもっと子供みたいなデートをしよう!」


「で、出来れば走り回るのはやめませんか?」


「シルビア運動神経ないもんね~」


「体力なら自信はあるのですが、運動となるとからっきしで……」


「じゃあボートに乗ろう!」


 そう言って手を引っ張って行かれました。

 夕方には城に戻りましたが、サファリ様はまだまだ元気です。

 私は少々疲れ気味。

 体力で負けました!


 お城に帰って来て真っ先にした事、それは。


「ただいま戻りました。本日はサファリ様と街で遊んできましたが、決してやましい事はしておりません」


 それはサンタナ妃殿下や側室たちへの説明です。

 サファリ様は外で色んな女性と遊んでいますが、かといって私も一緒になって遊んでいいわけではありません。

 そこの線引きはしっかりしておかないと。


「そう。今日は楽しめた?」


「はい。かけっこやおにごっこなど、まるで童心に帰ったようでした」


「ならよかったわ。今日の仕事は終わりでしょう? もう戻っていいわ」


「はい、それでは失礼いたします」


 執務室を出ましたが、まるで幼い頃からメイドをしていた私を遊ばせたようないい方でしたね。

 ……本当、変わった王子様達です。


 翌朝、側室のキャラバン様が大慌てで私の部屋に来ました。


「シルビア大変だ! サファリが連れ去られちまう!」


 一体なにごとかと思い、急いでサファリ様の部屋へと向かいます。

 すると部屋の中にはサファリ様とサンタナ妃殿下、そしてもう一人女性がいらっしゃいました。


「おおシルビア来てくれたか! お前からも何とか言ってやってくれ! パルサーが無茶な事を言ってきたんだ!!」


 パルサー……そういえば王女の一人が外国へ行っていたはずです。

 パルサー様は第六子の三女、以前お仕えしていた商店をお持ちのステージア様の一つ下の妹に当たる御方だ。

 サファリ様は第四子なので二つ下の妹。


「お久しぶりですわねシルビアさん。私めはパルサー、覚えてらっしゃるかしら? 昨日までディアマンテ龍王国におりましたの」


 とても物腰が柔らかい女性です。

 髪は生え際から首辺りまでが水色で、そこから足首まで伸びる部分は銀色のストレート。

 いつも微笑ほほえんでいるのか目は細くて見えません。

 ドレスは宝石が散りばめられていますが上品な造りで嫌味が無い。


「お久しぶりでございますパルサー様。もちろん覚えております」


「ほほほ、嬉しいわ。それでねシルビアさん――」


「まてパルサー! 俺からシルビアに話をするから黙っていろ!」


 パルサー様の言葉を慌てて遮るサファリ様。

 一体何の話なのでしょうか。


「ごほん、えーそうだな、パルサーがディアマンテ龍王国に行っていたのは聞いたと思うが、そこで変な話を持ってきたのだ」


「変とおっしゃいますと?」


「龍を探して欲しい、というのだ」

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