第106話
十八日目、サファリ様が一人で書類整理を始めて四日が経ちました。
書類整理に慣れてペースが速くなっていますが、まだ追加される量の方が上です。
この日は食堂で食事をせず執務室で軽食をとりました。
これだけ真面目に仕事が出来るのですね。
十九日目、一日の追加分がその日で終わるようになりました。
明日には積み上げられた書類の山脈が減っていくのでしょうか。
そういえば昨晩は執務室で仮眠をとってすぐに仕事を始めたので、流石にしっかりベッドで眠ってもらいました。
二十日目、私が執務室に入るともう仕事をしていました。
昨晩は仮眠のはずがベッドで寝ていただいたので早くに起きたのでしょう。
二十五日目。
随分と処理が速くなり、三つの机に山積みの書類は少しづつ減っています。
とはいえそろそろサファリ様が限界かも知れません。
最近のお食事は軽食ばかりだし、夜の睡眠以外は休憩らしい休憩をしていないので、肉体的にも精神的にも頃合いでしょう。
「サファリ様、遊びに行かれないのですか?」
この状況でそんな事を言う私を不思議そうな目で見るサファリ様。
しかしそれも一瞬で、すぐに書類に向き直りました。
「遊びたいかと言われたら遊びたい。しかし俺は王子様だぜ? 遊び以外にも出来る男という所を見せてやるよ」
「サンタナ妃殿下達はずっと遊んでらっしゃるのに?」
「はっはっは! 今まで苦労をかけたからな! 今度は俺が働く番だぜ!」
「なるほど、苦労をかけていた事は自覚してらしたんですね」
私の言葉に一瞬だけ手が止まります。
すぐに再開しましたが表情が少し険しいです。
「十年以上も遊び惚けていた俺をかばってくれていたんだ、この位じゃ恩返しにもなりゃしないがな」
「どうして逃げたんですか?」
今度は完全に手が止まり、険しかった顔から一転して怯えるような表情になりました。
ですがいきなり大声で笑いだします。
「……ふ、ふはーっはっは! 何から逃げたんだ? 俺はずっとここにいたぜ?」
「どうして事件以降は王子としての職務から逃げたのか、と聞いたのですが」
バキン! という音がしました。
どうやらサファリ様が強く握り過ぎて筆を折ったようです。
これはかなり怒ったのでは……あら? 体が小刻みに震えている、顔から冷や汗が流れている、表情が今にも泣きそう。
「知っているのか、あの事件の事を」
「はい。どうして職務を放棄しているのかと疑問に思い、調べさせていただきました」
「ああそうさ、俺はグロリア兄様の代わりに毒を飲んだんだ。それで十分だろう? 三番目の王子として、代替品としての役割は十分果たしたさ。だから後は遊び惚けててもいいはずだぜ?」
「そうでしょうか。ではなぜ今サファリ様は仕事をしてらっしゃるのですか?」
「それは……俺が王子という肩書を持っているから、いまだに中身も王子だと勘違いしている連中が仕事を振ってくるんだ。全く困った連中だぜ!」
「書類には全て目を通していますが、どれもこれも第三王子として十分に責任のある仕事でした。勘違いした人間が持ってくる内容ではありません」
「じゃ、じゃあサンタナ達だな! あいつ等は仕事が出来るから、あいつ等に仕事を持ってきたんだろう」
「どの書類も最終決裁者はサファリ様になっています。妃殿下に、ではありません」
「ぐ、ならキャラバン達だ! あいつ等も側室として――」
「側室にそんな責任はありません」
押し黙ってしまいました。
ここからは私の所見を述べさせていただきましょう。
「サファリ・
黙って私の話を聞いていたサファリ様ですが、フッと笑うと背もたれにもたれかかりました。
「僕の所に来て数ヶ月でそんな所まで考えられるの? やっぱりシルビアは凄いね」
随分と冷静になりました。
それに言葉遣いも変わっていませんか?
「でも訂正させてもらうよ、奇異な目で見られてなんかいない、何があったのかという興味の目だけだった。それと」
穏やかな表情から一変し私を睨みつけます。
「お父様は悪くない、あの場で僕を責めるのは当たり前だよ。そこは訂正して」
「……失礼しました。確かに事情を知らない
「うん、そうだね。ごめんねきつくいって」
「ではこれからは心を入れ替えて仕事をなさいますか?」
「え? 嫌だよそんなの。また怖い目に合うのは嫌なんだ」
「? ではこの書類が片付いたらまた遊び惚けるのですか?」
「もちろんさ! 今はサンタナ達に迷惑を賭けたから頑張るけど、もう少ししたら変わってもらうよ」
そうして書類に集中し始めました。
……何かが引っ掛かります。
サンタナ妃殿下達に迷惑をかけたら今だけ働いている?
グラスを奪ったサファリ様を咎めた
何か重大な見落としがある……どこに……
今までの事を思い起こします。
……! そうでしたか、そういう事ですか!
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