第100話
変な呼び名が付いて数日、サファリ様の日常はとてものんびりしているので、私は通常の仕事のほかにサファリ様のお仕事のサポートに入る事になりました。
と言っても妃殿下や側室たちが十分なサポートをしているので私は雑用です。
「シルビア、この書類の山を街や村別にまとめてくれるかしら」
「かしこまりました妃殿下」
「シルビア~、この荷物運ぶの手伝って~」
「では反対側を持ちますのでご一緒に」
「シルビアが入れた紅茶、飲みたい」
「すぐに入れてまいります」
などなど、女性陣の働きが大きいので私のやる事は本当に雑用ばかりです。
初日から気が付いていましたが、サファリ様は全く仕事をしていません。
今サファリ様の執務室に居るのは妃殿下と側室が二人、残りの側室二人はサファリ様と街で遊んでいます。
「おかしいわね、私はサファリ様のお手伝いをする為に呼ばれたと思いましたが、これでは妃殿下のお手伝いをしているだけです」
これまでお仕えした王族の方々は、それぞれの役割に
一時期は怪しいと思ったミストラル様は裏で暗躍していましたし、一番下のローレル様ですら外交を頑張っていらした。
サファリ様の役目は何かしら。
「うぉ~い帰ったぜェ」
そんな事を考えていたらサファリ様が帰っていらした。
両脇には側室二人がおり肩に腕を回していますが……まるで側室に支えられるように足を引きずっています。
「サファリ様⁉ 体調は大丈夫ですか!!」
慌てて駆け寄るととある匂いがしてきました。
「サファリ様? 朝から飲んでらっしゃいますか?」
「うぇっへっへっへ、朝から飲む酒は、なんでこんなに美味いんだろうな」
呆れた、遊び回るだけでは飽き足らずお酒を飲んで来るなんて。
他の王族の方々は今この瞬間も役目を果たしているというのに。
「昼飯が出来たら起こしてくれぇ~……くかぁー」
ソファーに横になるといびきをかいて寝てしまいました。
……おやすみなさいませ。
「シルビア、さっきの書類の分別は終わったかしら?」
「はいこちらに。街と村ごとに分け、五十音順に並べておきました」
「あら、ありがとう」
こうして雑用をこなしていますが、そういえばメイドの数が少ないですね。
他の王族の方々は常に数名は側にいましたが、サファリ様は私以外は別室で待機か用事を言いつかっています。
他の王族の方よりも仕事が楽に感じるわね。
とはいえ仕事の時間内はしっかり働きましょう。
数日で仕事に慣れたので、妃殿下と側室の仕事を先回りして午前中で終わらせます。
その後はサファリ様の衣装の手直しやアクセサリーの管理をし、それでも時間が余ってしまいます。
「こうなったら色々と動くしかないわね」
私は午後からは他のメイド達の予定を聞き、手が空いているメンバーで騎士団及び兵士の訓練所へと向かいます。
幸い私はどちらにも顔が利きますので、一緒に居るメイドもすんなり入れました。
「シルビア嬢、久しぶりではないか。ついに騎士団に入る気になったのかね?」
「お久しぶりです騎士団長。残念ながら入りに来たのではありません」
騎士団長に挨拶をし、他のメイド共々軽く騎士様達を接待します。
といってもとびっきり美味しいお茶とお菓子を用意しただけですが。
しかし訓練で疲れている体に甘いものはとても染みる様です。
そして騎士様達が落ち着いた頃、私は騎士団長に話を切り出します。
「騎士団長、実は今日お伺いしたのはお願いしたい事があるからです」
「ほう、なんだね?」
「サファリ様の事をお伺いしたいのです」
サファリ様の名前を出すと、騎士団長はピクリとティーカップを持つ手が固まりました。
あら? 私が思っている以上にサファリ様には何かがあるのかしら。
「そういえばシルビア嬢はサファリ様に付いているのだったね」
「はい。正直な事を申しますと、他の王族の方とはあまりにも違う御方なので、何か理由があるのではないか、そう考えています」
騎士団長はカップケーキを一口で食べて紅茶を流し込みます。
表情からは考えが読めませんが、サファリ様の名前を出す前とでは明らかに態度が変わっています。
一介のメイドが踏み込む話ではなかったかも知れません。
「そうだな……シルビア嬢はサファリ様に付いてどのくらいたつ?」
「今日でちょうど十日目です」
「そうか。なら今のサファリ様のご様子はよく理解しているね」
私は何も言わず首を縦に振ります。
「ではそうだな……少し散歩をしようか」
騎士団長に続いて外に出ると、広い庭に入り随分奥まで進みます。
あまり人には聞かせられない話なのかしら。
庭の奥、あまり手入れもされていない場所にたどり着くと、騎士団長は手頃な石に腰を掛けました。
「サファリ様だがね、昔はとても優秀な方だったのだ」
騎士団長は空を見上げながら、遠い昔を思い出す様に静かに語りだします。
「あれは十年程前になるかな、第三王子という立場のサファリ様は王位継承権も高く、第一、第二王子を担ぎ上げる連中から疎ましく思われていたのだ」
王位継承権争い……王子の多い国ならどこにでもある話ですが、やはりエルグランド王国でもあったのですね。
「しかし継承権争いは第一王子、第二王子に何らかの問題があるか、第二、第三王子の能力が高すぎたりしない限り、第一王子で決まるのが通例ではありませんか?」
「そうだ。グロリア様は昔から聡明であらせられるし軍事にも明るい。次男のシルフィー様もそんなグロリア様のフォローに回ると公言されていた。だから私達は何の問題もなくグロリア様が王位を継ぐと考えていた。あの時までは」
「あの時、とは?」
「優秀過ぎる王子が国王になられては困る国があったのだ。クラウン帝国さ」
クラウン帝国……ここエルグランド王国に戦争を仕掛けてきた国です。
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