第77話

「……理由?」


「はい。王宮で働くメイドの多くは貴族令嬢です。しかし少ないながらも平民もいます。しかし陛下へいかからしたら同じメイドでしかありません」


「メイド達のしがらみや行動をいさめさせるために、シルビアを呼んだという事?」


「その可能性を考えています。わざわざ問題のある領地へ向かわせて、メイドとして働かせるかたわらで領地の問題を解決させることで私を試し、その資格があると判断されたのでしょう」


「……いえ、でも待って、確か貴族を順番に回らせる提案をしたのはスーお姉様だし、エクストレイル伯爵家を指定したのはミーお兄様だわ」


「その通りです。最初は興味本位だったのではないでしょうか」


「興味?」


「平民でありながら成果を出した私です。少なくともよそに渡すくらいなら手元に置いておきたい、そうお考えになってもおかしくはありません」


「それは……確かに言えているわね。じゃあやっぱりお父様はスーお姉様の提案の時点で考えていらしたのかしら」


「それは流石にわかりませんが、途中からはそのつもりだったと思います。そうでなければ問題のある貴族ばかりに回したりはしないでしょう」


「言えてるわね……ならいいわ、あなたの思うままにやってみなさい。そのかわり! メイドとしての仕事をおろそかにしてはダメよ」


「かしこまりました。リーフ様のお世話を優先とし、空いた時間で進めてまいります」


 翌日から早速調査を開始しました。

 朝礼時はとても情報が入りますね、一歩引いた感覚で見るとそれぞれの立場や力関係が良く見えてきます。

 あそこの威張っているのは上級貴族の令嬢かしら、あっちの恐縮しきりなのは平民? あちらでおべっかを使っているのは下級貴族ね。

 基本的にメイドとしてのキャリアよりも、貴族階級が高い方が強いようです。


 たとえ代々王宮でメイドをしていても、親の七光りの方が強いというのはメイドとしてどうなのでしょうか。

 代々メイドとしてお仕えしている人は、メイドとしての信頼が違います。

 そしてメイドとして小さなころから鍛えられていると、その仕事っぷりも他とは違うでしょう。


 貴族だからと威張り散らし、代々のメイドが辞めるとなると損失が大きすぎます。

 これは思ったより由々しき事態ですね。

 さて、まずは近い所でリーフ様付きメイドは、と……リーフ様付きのメイドはみな男爵家や子爵家な上、年齢も近いので仲がいいですね。

 なら一番問題がありそうなところは?


 あそこ……かしら。

 見た先には見目麗しい(王宮のメイドは皆キレイだけど)メイドがいますが、メガネに黒髪、お化粧が少なめの女性がいました。

 その周囲にはメイドなのにしっかりとメイクをした女性が複数名います。

 確かあそこは第四子三男のサファリ様のメイド達。


 サファリ様は見た目はワイルド系な御方ですが、とても物静かで優しいと聞いています。

 恐らくメガネのメイドは平民で、代々王家に仕えている家系だとみました。

 メガネのメイドは必死に着飾ったメイド達に説明していますが、着飾ったメイド達は全然聞いている態度ではありませんね。

 イジメ、とは言えないかもしれないけど、王子に仕える者としてはしっかりして欲しい所です。


 恐らくですが、サファリ様付きのメイドは、次男のシルフィー様付きのメイドと関係があまりよろしくないはず。

 長男のグロリア様は王太子として別格とであり、長女のシーマ様はすでに他国の王太子に嫁いでいます。

 次男のシルフィー様と三男のサファリ様の仲は良好ですが、そのメイド達はどちらが優位かで争っています。


 万が一、御二方の関係にまで発展しては目も当てられません。

 これは急いだ方がよいでしょう。

 しかしどうやって切り込みましょうか……


 そんな事を考えながらリーフ様のお世話をしていると、面白い人が訪問予定だと聞きました。

 スリーヒルズ連邦のヒミコ様だ。

 あの金髪縦ロールでお化粧が厚いヒミコお嬢様がどうして? と思いましたが、どうやらプレアデス教国きょうこくに使節団を派遣した国を順番に回っているそうです。

 

 関係を持った国との連携を強めようという事でしょうか。

 普段なら「お疲れ様です」と流す所ですが、なんと私にも会いたいとご指名をいただきました。

 これは……ヒミコ様には申し訳ありませんが、いいネタが転がり込んできました。

 ヒミコ様はスリーヒルズ連邦で最大の領土を持つ自治区の王女です。

 さて、相手はどういう反応を示すでしょうか。

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