第63話

 エクシーガ大司教がプレアデス教皇の息子だとわかりましたが、なんでしょう、あまり驚いていない自分がいます。

 ああそうか、リック様が王子だとわかった時と状況が似てるからだわ。


「そうでしたか。道理で似ていらっしゃると思いました」


「……シルビアさん? その、それだけですか?」


「え? 何がでしょうか。あっ、親子に対しては挨拶が違うなどありましたか?」


「シルビアしゃん、そんな挨拶は無いのでしゅよ」


 はて、なら何か問題があったのでしょうか。

 プレアデス教皇は何が面白いのか、笑ってエクシーガ大司教の肩をバンバン叩いています。


「ハッハッハ! エクシーガよ、お前が思っているより厳しいようだぞ!」


「……ハイ」


 プレアデス教皇と別れ、エクシーガ大司教がソルテラ宮殿内を案内してくれます。

 ソルテラ宮殿はプレアデス教皇が公務を行う場所であり、ヴィヴィオ教の総本山はプレオ・ネスタ大聖堂という建物があります。

 さらにプレアデス教皇の住居は別にあり……ややこしいです。


「ここが君達に使ってもらう部屋だ。プレアデス教国きょうこくの歴史書や文化について書かれた書物が揃っているから、好きに使って欲しい」


 白い大きな部屋の中には沢山の本棚と沢山の本が並んでいます。

 それ以外にも大きなテーブルや作業スペースらしき場所があるようですね。


「エルグランド王国の文化をどうやって伝えるかは君達に任せる。ただ事前に連絡だけはして欲しい」


「わかりましゅた。では早速でしゅが料理をしたいので、キッチンを使ってもいいでしゅか?」


「キッチンか、この部屋には無いからサブ厨房を使う事になるな。うん、いつでも使えるように手配をするから、少し時間が欲しい」


「わかりましゅた、ありがとうございましゅ」


 そう言ってエクシーガ大司教は部屋を出て行きました。

 料理を使っての文化交流は、長い旅の途中でローレル様と決めた事です。

 他にも色々と考えましたが、最初は料理で意見が合いました。


「まずはこちらの食材で何が出来るか、市場へ行きませんか?」


「わかりましゅた」


 部屋の前で控えている修道女シスターに市場の場所を聞き、馬車で暫らく移動しました。

 まず目に入ったのはカラフルで大きな木の実。

 まっ赤っかだったりツンツンと全体が尖っていたり、私の頭よりも大きなものがたくさん並んでいます。


「わ、私の知らない果物が沢山ありますね」


「この国は暑い地域でしゅから、エルグランドには無い物ばかりでしゅね」


 ローレル様も様々な果物に目移りしています。

 市場を見ていくと……魚もカラフル⁉ た、食べれるのですか?


「そういえば教国きょうこくの名物に、体は大きいけど一口分しか食べる所のない魚がいるそうでしゅ」


「も、もったいない。他の部分はどうするんですか?」


「燃料に使うそうでしゅ。硬くて油を沢山含んでいると聞きましゅた」


 なるほど、場所が違えば魚の価値も全然違うんですね。

 そして次は香辛料が見えてきました。


「……っくしゅん! し、失礼しました」


 腕で口を押えたけど……どうしたのかしら、いきなりくしゃみが出たけど……ああ、コレね。


「この香辛料はとても辛い事で有名でしゅ。匂いをかぐとクシャミが止まらないそうでしゅが……本当だったんでしゅね」


「身をもって証明しました」


 おや? ローレル様の目が怪しく光っていますね……これはきっと……

 ローレル様が私の腕を引っ張り香辛料の前に立たせます。


「……ん?」


「ふふふ、残念ですが息を止めていました。さあ次はどうぞ!」


「……っきしゅん!」


 ローレル様を香辛料の前に引っ張ると、可愛らしいくしゃみが聞けました。

 ギリギリ手で口を押さえましたね。


「やられたでしゅ」


 二人で顔を見合わせると、自然に笑いが出てきました。

 まるで長く付き合いのある人と買い物をしているような感じです。

 プリメラとは友人、ローレル様は……お姉さん? 年下なのにお姉さんだなんて変な感じです。


 市場には食べる屋台もあったので、そちらで食事もいただきました。

 ……辛いです。

 基本的に辛い物が多く、最低限がピリ辛、私が限界だった火を噴く辛さもありました。

 

「嬢ちゃん達は旅行で来たのかいな? 旅行者向けの料理も向こうにあるぞい」


 口を真っ赤にして水を飲んでいると、マスターらしき人が指をさします。

 そこは屋台ではなくしっかりと店を構えていました。

 どんなお店なのかと中を覗くと、確かに旅行者らしき人が大勢います。

 辛くなさそうな軽食を頼み、店の中を観察します。


 あれ? 旅行者向けの料理だから辛みを抑えた物かと思いましたが、食べている人の大半がイマイチそうな表情です。

 どうしたのでしょう……と、料理が運ばれてきました。

 パンに肉と野菜、果物が挟まれたサンドイッチですが、一口食べて理由がわかりました。


「……味気ない」


「辛さを取っただけでしゅね」


 辛い香辛料が入った料理から、辛い香辛料を抜いただけの料理。

 それは味気ないと感じて当たり前でしょう。


「ローレル様、私――」


「いわなくても大丈夫でしゅ。私も同じ意見でしゅから」

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