第62話

「シルビアしゃん、プレアデス教国きょうこくでは、女性は頭巾フードをかぶらないといけないのでしゅよ。これを持っていてくだしゃい」


「黒いフードですか、ありがとうございます」


 私とローレル様は王家が用意した馬車でプレアデス教国きょうこくへと向かっています。

 ローレル様は現在十五歳で、金色のふわふわカールのロングヘアー、以前は髪に赤いリボンを二個付けていたけど、今は小さな花のアクセサリーを左右に付けている。

 ピンク色だけど落ち着いたデザインのドレスをまとい、相変わらずとてもおっとりとしていらっしゃる。


 この口調は……ずっとこのままなのかしら。


「シルビアしゃんは他国へ行くのは初めてでしゅか?」


「はい。ずっと国内にいました」


「そうでしゅか。初めての国外がプレアデス教国きょうこくだと、ちょっと苦労するかもしれないでしゅね」


「そうなんですか?」


「宗教国家というだけではなく、あの国の決まりごとは独特なものが多いのでしゅ」


「た、たとえばどのような?」


「このフードもそうでしゅが、完全一夫一婦制だったり、空を飛んではいけなかったり……」


「あの、ローレル様? 空なんてどうやって飛ぶんですか?」


「飛べましぇん。空を飛んでいいのは神と鳥のみなのでしゅよ。なので鳥は神の使いとして神聖視されていましゅ」


「そうだったんですね。あら? では鳥料理などは……」


「死刑でしゅ」


「ひっ」


 私は鳥料理が好きなんですが、一年は我慢しないといけないようです。

 さて、プレアデス教国きょうこくまでは馬車で二十日間、途中の国も楽しみながら向かうとしましょう。

 

 二十日間かけてプレアデス教国きょうこくに到着しました。

 長旅でわかりましたが、やっぱりローレル様はとても頭がいいです。

 知識はもちろん機転も効くので、一緒に居てとても楽しい。


「やっと到着でしゅね」


「はい、長いようで短い旅路でした」


 フードをかぶって馬車を降りると、とても特徴的な家屋が並んでいます。

 レンガを円筒形に並べた尖塔のような形で、それが並んでいたり重なるように食い込んでいたりで、四角い建物がありません。

 しかも屋根はとんがり帽子がいくつも並んでいます。


「雪が降ったらどうするんでしょうか」


「プレアデスでは雪が降らないのでしゅ。降ったらお祭り騒ぎらしいでしゅよ」


「なるほど、雪かきが無いのは嬉しいですね」


「……雪は雪で役に立っているんでしゅよ?」


「そうなんですか? どんな風に――」

 

 私が聞こうとした時、前を走っていた馬車から人がおり、声をかけてきます。


「今日の宿は馬車の反対側です。なので裏側にお回りください」


 おっと、どうやら降りる方向を間違えた様です。

 なにぶん同じような建物ばかりなので、どれが宿か分かりにくいんですよね。

 馬車の反対側に回りますが……どれでしょう。


 私達に声をかけた人が一つの建物に駆け寄っていきます。

 ああ、あれですか。

 

「なるほど、看板ではなくペンキで宿屋と書いてあるんですね」


「こればっかりは慣れるしかないでしゅね」


 入口の上に大きく「プレアデス一の宿屋」と書かれています。

 看板を出せばわかりやすいと思うのですが、理由があるんでしょうか。

 室内は赤い壁と、壁画のような人間が描かれたカーペットが飾ってあります。

 それ以外は一般的ですね。

 この日は疲れていたので夕食後は直ぐに休みました。


 翌日になり、私達はソルテラ宮殿へと向かいます。

 ソルテラ宮殿は他とは違い随分と四角い造りで、あちこちに横に長い棒が取り付けられています。

 案内されて中に入ると、ああ中は普通に豪華な造りですね。


「やあシルビ……ローレル王女、シルビア嬢、よく来てくださいました」


 大きく手を振るかと思われたエクシーガ大司教ですが、隣に誰かがいる事を思い出したのか、手を戻して静かに挨拶をしてくれました。

 ……上司かしら。


「お出迎えありがとうございましゅ。エルグランド王国より参りましたローレルでしゅ」


「同じくシルビアです」


 この国ではスカートをつまんで腰を少し下すのではなく、男女問わず腕を体の前で上下に重ね、四十五度くらいお辞儀をします。

 

「よく来てくれた。私はアルシオーネ八世。こちらは知っていると思うが、大司教のエクシーガだ」


 アルシオーネ八世?……!?!?


「プレアデス教皇アルシオーネ八世! は! 失礼しました、このような場所でお会いできると思わず、取り乱してしまいました」


「シルビアのご無礼をお許しくだしゃい」


「かまわぬよ。私も会いたいと思っていたから丁度良かった」


「どうです父上、素晴らしい女性でしょう?」


 ……父上?


「そうだな、ローレル王女には及ばんが、礼節をわきまえておる」


 ……普通に返したわ。


「シルビアしゃんが混乱していましゅので、もう一声紹介をお願いしましゅ」


「おおすまんな。エクシーガは私の息子だ。仲良くしてやってくれ」


 エクシーガ大司教が教皇の息子⁉ 

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