第47話

 私は思い付いた作戦を家宰かさいのデイズさんに話しました。


「それが出来るのなら希望はある。しかし可能なのか?」


「何とかなると思います。ただその準備のために、皆さんにご迷惑をおかけする事になってしまうので……」


「それは気にしなくていいよ。フーガ様が元気になられるのなら、それを最優先しよう」


「わかりました。では私は連絡を入れますので、詳細が決まったらお知らせします」


「うむ、使用人たちには私が連絡をするから、君は準備を進めてくれ」


 デイスさんに作戦の説明をして、何とか出来るめどが立ちました。

 実はかなり無茶なお願いをする事になりますが、アレを使えば可能なはず。

 ただ一番の問題があります、それは……私が緊張に耐えられるかどうか、です。


 しかしそうも言ってられないので、この作戦を実行する事にします。

 早速手紙を送り、返事が来るのを待ちます。

 まずは何年もお会いしていないアベニール辺境伯だ。

 プリメラやセフィーロ様は遊びに来てくれたから会えたけど、流石にアベニール様には簡単にお会いできない。


 なのでまずは手紙でお伺いをたてましょう。

 手紙を出して一週間ほどで返事が返ってきました。

 もう? 私の予想ではひと月近くかかると思っていたけど、ひょっとしてアベニール様は王都にいらっしゃるのだろうか。


 いえ、今はそれよりも手紙を確認して……わあ、大丈夫の様です。

 だ、大丈夫なんだ、へ、へぇ~、私が思うよりもアレは強いのかもしれません。

 おっと、私が戸惑ってどうするのよ。


 デイズさんに連絡して予定のすり合わせを行います。

 お客様がいらっしゃるのは二週間後、さて、この国でも屈指のおもてなしをしないといけないから、これからはノンビリしていられないわ!


「シルビアぁ~、私つかれたよ……」


「ごめんねピノ、私も手伝うからもう少し頑張って」


「あらあら~? ピノさんは、新人さんにお手伝い、されても平気、なんですか~?」


「シルビアを新人って、本気で思ってる?」


「全然~? 私達より、ずーっと、仕事できるから~」


「ならあんたも負けないように働くの!」


「はぁ~い」


 この二人も仲がいいですね。

 というよりメイド間はかなり仲がいいです。

 最近知りましたが、安すぎる寮の家賃に心を痛めた同志が集まり、密かにお金を出し合ってめているそうです。

 もちろん私も出しました。


 そんな感じで二週間が過ぎ、遂にお客様が来られる当日を迎えました。


 この日は街道は厳重に警備され、街の入り口や要所要所に制限をかけて人の出入りをコントロールします。

 街の中は他の領地や以前の資料を見ながら警備体制を整えたし、一番の問題であるお屋敷でのおもてなしは……大丈夫! やれるだけやったわ!


 街の入り口付近が賑やかになって来た。

 遂にいらしたんだわ。


「デデデ、デイズ? シシシ、シルビア? どどど、どうしよう、私は大丈夫かな? 服装は乱れていないかな?」


「大丈夫ですよフーガ様、この日の為にシルビアと共に準備をしてきたではありませんか」


「その通りですフーガ様、どっしりとお屋敷でお出迎えをしましょう!」


 私達はお屋敷の門の前に立ち、間もなくいらっしゃるお客様をまっている。

 フーガ様は緊張しっぱなしだわ。

 ……私は強がっているけど、本当は心臓がバクバクいってます。

 が、ガンバレ私! ここまで来て失敗なんてありえないわ!


 パレードが近づいてきます。

 遂に来られたわ。

 音楽隊が見えてきました。

 白い制服に背の高い帽子をかぶり、様々な楽器を持って演奏しています。

 そしてその奥から大きな馬車が見えてくる。


 馬車は馬三頭に引かれ、白をベースとしてあちこちが金色に輝き、赤と紫のラインが入っている。

 馬車が門の前で止まり、儀礼服を着たフーガ様の私兵が仰々しく門を開ける。

 音楽隊の演奏が終わると馬車が先頭になり、お屋敷内に馬車が入る。


 フーガ様とデイズさん、そして私は馬車を案内するように前を歩き、お屋敷の正面玄関まで歩く。

 玄関前に到着すると玄関に背を向けるように振り返り、片膝を付いて右手を胸に当てる。


 馬車が横付けされて止まり、遂に馬車からその姿を現したのは……


「ようこそおいで下さいました、国王陛下へいか


「久しぶりだな。壮健そうけんかフーガ」


陛下へいかの御威光のお陰で」


 そしてもう一人が降りて来た。


「お久しぶりでございます、王太后おうたいごう様」


 王太后おうたいごう様、フーガ様が英雄と崇める先代国王陛下の皇后様、現国王陛下のお母様だ。


「久しぶりねフーガ。何十年ぶりかしら」


 すでに九十を超えるご高齢だけど、白い髪を冠の様に頭でまとめ、白いドレスに負けない程に肌がキレイ。

 それに杖は使っているけど足取りはしっかりしている。


 さあシルビア、気後れしないで、これからが私の本番よ!

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