第46話
「父上が必要以上に質素倹約を進める理由……それは祖父や祖母、更にいうと先代国王
「祖父母にあるというのは理解できますが、なぜ先代
「先代の時代は戦争が多かったからね、質素倹約が美徳とされていたんだ」
先代国王
でも確かに戦争は多かったようだ。
この国の戦争はこの間勃発した戦争の前は五十年前、でもその前はたったの三年前に起きている。
小競り合いを合わせると先代国王
「国を挙げて質素倹約を進めていたのはわかります。しかしそれは他の貴族も同じはず。なぜフーガ様はいつまでも質素倹約を貫くのですか?」
「それは当たり前なんだよ。当時の陛下は戦争をしたら連戦連勝、英雄中の英雄だったんだ。そんな英雄が父上の質素倹約を直接褒めてみろ、舞い上がって更に質素倹約を進めるに決まっているじゃないか」
英雄に褒められた。多分それだけではないわね、そんな英雄と関わり合いを持つ父親も英雄視していたんだわ。
だから自分も父親の様になりたくて、英雄に認めてもらい、自分も英雄になりたい、そう考えたのではないかしら。
「しかし失礼ながら、フーガ様が領主になってからは、誰にも褒めて頂いていないのではありませんか?」
「ああ、英雄だった先代
「領民に? ……税率!!」
「そうだ。ニ十パーセントという通常の半分以下の税率にする事で、領民は領主である父を褒めたたえるだろう。たとえそれが自分の首を絞める結果になったとしてもね」
メチャクチャだわ。
自分が褒められたいがために、承認欲求を満たすためだけにそんな事をしていたというの?
家族を苦しめてまで。
でもフーガ様も犠牲者なのかもしれない。
戦乱の時代に産まれて、国を挙げての節約を当たり前に受け入れる生活。
幼い頃の強烈なイメージはずっと残るというから、いまだにその頃のイメージが残っていらっしゃるんだわ。
「思った以上に……根が深いんですね」
「ああ。恐らく
そんなの理解できるはずがないわ。
同じ時代を生きていた人間が、自分とは全く違う考えを持っているだなんて。
でもどうしよう、そんな考えをお持ちだなんて、どうやって考え方を変えればいいの?
六十年以上やってきた行動を、どうやったらやめさせられるの?
「なにか……何か考えを変えるきっかけがあればいいんですが……」
「それがあれば私だってやっている。なにせ私や妻、息子まで被害を被っているんだからな。しかし親とはいえ相手は領主、強く意見を言えないんだ」
それは当たり前だ。
平民の子供だって親の言う事に強く反発できない。
貴族は親の力が強すぎて、親に反発なんてそうそうできない。
若旦那様達との話では、フーガ様の考えを変える方法が思い付かず解散となった。
英雄に憧れた人が英雄の言葉を守る、か。
厄介なんてものじゃないわね。
何も手が思い付かないまま数日が過ぎ、若旦那様達は食後に軽食を食べるのが通例となっていた。
でもきっとバレてしまうわ。
ううん、もう知られているかもしれない。
その時にならないと、どんな反応をするのか想像が出来ない。
「シルビア、ここの文章がわかんない」
「どれどれ、これは「おお
夜の自室で、ルームメイトのピノは本を読んでいます。
寝間着姿でベッドに寝ころび、他国の物語の場合は私に聞きながら楽しそうにしています。
それにしても物覚えがいいですね、一度教えた言葉はほぼ理解しています。
「ええ~? 私は王子様もキレイだと思うんだけど」
「キレイな人がキレイな人に使う言葉じゃないわよね」
「嫌味よイ・ヤ・ミ。「おお麗しのシルビアよ、あなたの美しさの欠片を私におくれ」」
「コホン「何を言うのピノ、私こそあなたの欠片が欲しいわ」」
二人で顔を見つめ合います。
そしてゆっくりと顔が近づき……
「「プッ、あはははは」」
二人で大笑いしてしまいました。
ピノは凄いですね、こんな私とあっという間に打ち解けてしまいました。
ランタンを消して布団に入ります……あら? 何かしら、何かが頭の片隅に引っ掛かっているような気がする。
朝になり、朝の分のお勤めをこなしていきます。
ああそういえば、今日は買い物もあるんでした。
早めに終わらせて、昼前には戻って来てぼっちゃんの食後の食事を用意しないと。
街は相変わらず活気にあふれています。
税金が安いのもありますが、道はしっかりと整備され、衛兵の数も多いので治安も良いからでしょう。
あら? あそこで小さな男の子と女の子が喧嘩をしているわ。
「バーカバーカ!」
「ブースブース!」
兄妹という風には見えませんからお友達でしょうか。
私も小さい頃はあんな感じだったのかな。
「お前のカーチャンでーべそ!」
「あんたのお母さんもデーベソ!」
類は友を呼ぶとはこの事ですね!
そしておそらく二人は親の買い物についてきたのでしょう、背後に迫る二つの影に気が付いていません。
「「誰がデベソだって?」」
「「……あ」」
同時にゲンコツが落ち、頭を押さえながら二人の母親に腕を引っ張られていきます。
ゲンコツまで仲良く食らうとは、とても気が合っていていいですね。
……またです、また頭の片隅に何かが……!!
「そうだわ、これならどうかしら!」
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