第42話
新しい仕事場に着いた私を出迎えたのは、やせ細ったフーガ侯爵だった。
大きなお屋敷に大きな玄関扉、その扉を半分だけ開けて扉につかまりながら挨拶をしてくれた。
「や、やぁよく……来てくれた。私がフーガだ」
歳は六十過ぎ、身長百六十センチ程だと思うけど、体に力が入らないのかとても小さく見える。
白髪を七三分け、目は辛うじて開いてるのがわかる程に細く、声も耳を傾けないと聞こえない。
でも服装はしっかりと貴族している。
「私は
扉の向こう、フーガ様の後ろには燕尾服の男性が立っていた。
デイズさんはフーガ様よりは少し若く見える。
こちらは歳の割に体型・姿勢共にピシッとしてるわね。
「大丈夫ですか!? 体調が悪いのであれば言っていただければ後でお伺いしましたのに!」
慌てて駆け寄るけど、力ない手で制されます。
「ああ、大丈夫……大丈夫だよ」
困った私は後ろに立っている
デイズさんは困り顔で、いつでも支えられるように手を出して構えていますが、それでも支えようとはしません。
どういう事?
ちなみにデイズさんや他の人はやせ細っていません、普通です。
「シルビア君……まずは部屋に荷物を置いて……後の事はデイズにまかせ、るよ」
そう言ってフーガ様はよろよろと屋敷に戻りました。
……侯爵よね? 侯爵といったら、国への影響力もそれなりにある立場だと思うんだけど。
それがやせ細るってどういう事?
「すまないね、フーガ様は昔からああなのだよ。質素倹約が好きと言えば好きでいらっしゃるが、ああも限度を超えていてはね」
「自分の体を壊してする事じゃないと思います!」
「ああ……その通りだ。この後、少し話をしてもいいかね」
デイズさんに連れられてデイズさんの自室へと入りました。
お屋敷の仲もそうだけど、
フーガ様の自室はどうなのかしら。
クッションの厚い高価そうなイスに座ると、デイズさんはお茶を入れてくれた。
「この紅茶もそうなのだ。フーガ様は出がらしで良いと言って、私達に新しい物を使わせるんだ」
ティーカップを二つ並べ、いい香りのする紅茶が注がれる。
お茶請けも美味しそう。
正面の椅子に座って話を始めた。
「フーガ様は、いやご家族そろって痩せておいででね、奥様はもちろん坊ちゃまも、そのお子様も痩せているんだ」
「お金が無い、という訳では無いようですが?」
「ああ、お金はある。と言ってもフーガ侯爵領は税が安いからね、人口を増やす事で何とか回っている」
「安いというと四十パーセントですか?」
「いや二十パーセントだ」
「二十⁉」
平民の税金は人頭税や土地税、施設料や他にいくつもの税金がかけられている。
でも安くて収入の四十パーセント、高い所は六十パーセントのはず。
それが二十パーセントですって? 安いにも程があります。
「でも、それでは王都に収める分も不足しませんか?」
「ギリギリという所だね。もちろん街の整備や賃金の支払いはしっかりとしている」
「ギリギリだから、フーガ様はご自分たちの分を削っていらっしゃるのですか」
「そうなのだ。先代も節約をしておられたが、あそこまではされていなかった」
「でもどうして税金をそんなに安くしたんですか?」
「先代の話では、「貴族は見栄が張れる程度あればいい、後は還元する」とおっしゃっていた。それがどうしてああなったのか……」
テーブルに両肘を付け、組んだ指に額を乗せてため息をつきます。
ため息をつきたいのはこちらだけど、グッと我慢して話をしましょう。
「では何とかして無茶な節約を止めて頂かないといけませんね」
「それなんだよ! 何度お願いしても「食事が多いから」とメイドや執事に渡し、自室も必要最低限の物しか置いて下さらない。居間や執務室、お客様の目に入る所はしっかりしているが、それ以外はからっきしだ!」
お願いしても食べない? それってどういう事かしら。
質素倹約にしても度が過ぎているわよね。
拒食症? 男性貴族が?
「もっと根本に何かあるのではありませんか?」
「それを調べて欲しい」
「私に、ですか?」
「そうだ。私や他の者には意固地になっているかもしれない。何とか理由を聞きだしてもらえないだろうか!」
信用のある人の方が聞き出しやすい気もしますが、長く付き合っているからこそ言いにくい事もあるかもしれません。
しかし私に出来るでしょうか? でもあんなフーガ様を放っておくなんて……
「わかりました、出来る限り早くフーガ様のお心を聞かせてもらいます」
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