第18話
アベニール様から連絡が入り、砥ぎ機を販売している店長から出荷先の情報を手にしたようです。
すでに調査が進み有力候補をいくつかに絞り込めたとか。
「プリメラ、ひょっとしてアベニール様は王族を動かしたのですか?」
「どうしたの? いきなり」
「いえ、いくらアベニール様が優秀でも、砥ぎ機の販売先は多岐にわたります。それをこの短期間で一つ一つ調べて絞り込むなんて、辺境伯と言えど人出が足りないのではないでしょうか」
寮の自室での夕食時、私はプリメラから貰った報告書を読みながら疑問を口にしました。
私が雑貨店を辞めてからも販売を続けているはずなので、その数は軽く千を超えるはずです。
なのにほんの数日でこれです。
「それもそうね。でもお父様からは特に王族に口利きをしたという話しは聞かないし、ひょっとしたら他の貴族とも協力しているのかもしれないわね」
「そうですね、同じ辺境伯や公爵クラスが数名手を貸してくれれば、この手の調査は進むかもしれませんね」
一応は悪魔教関連なので国が動いたのかとも思いましたが、まだ悪魔教が大きく動いている訳ではなく、私個人に対しての事なので簡単には動けないはず。
であればアベニール様が他の貴族に手を回してくれたのだろう。
「調査に関してはお父様に任せておけばいいわ。私達はこっちの事に注力しましょう」
「そうですね」
平和な学園生活が数日続きましたが、今回は誰も油断なんてしていません。
私が襲われて以降は警備も厳重になりましたし、学生も見知らぬ人が入ってきたら警戒しています。
「リック様、今日の玉子焼きを作ってきました。少し多めに作りましたからお好きなだけどうぞ」
「ありがとうシルビア……うん、美味しいよ」
今日はリック様の好物である玉子焼きをたくさん作ってきました。
あ、もちろんプリメラの好物である肉煮込み目玉焼き乗せも入っています。
プリメラもリック様も美味しそうに食べてくれるので、私も作りがいがありますね。
「シ、シルビア、俺のから揚げは……?」
「すみません今日は作っていないんです」
「なんとー!? シルビアが……シルビアが俺よりもプリメラを優先した……」
「えっと、それは当たり前ですよね?」
「おお本当だ! 俺とした事が。しかしリック君を優先したね?」
「昨日はから揚げが入っていましたよね?」
「うむ、絶品だったよ」
というやり取りを一日おきにリック様、セフィーロ様が交互にしてきます。
プリメラの好物は必ず入れて、お二人の好物は順番に入れるのが最近の日課です。
「それにしても、教室で昼食をとる人が増えましたわね」
「みんな考える事は同じよリバティ。身を守るには教室が一番だもの」
そうなのです、最近は教室で昼食をとる人が増えたため、食堂の職員さんはお弁当の販売を始めたほどです。
それにしても素早い切り替えでした、流石は商売人。
午後の講義が始まってしばらくした頃、学園に鐘の音が一度鳴り響きました。
まだ講義が終わる時間でもなく、控えめの音量でした。
もちろん講義が終わる事なく続きますが、教室に緊張が走ります。
更にしばらくすると鐘が二回響きます。
講師が講義を止め、生徒達もざわめき始めました。
「こちらの戸は私が鍵を掛けるから、一番隅の席の者はそっちの鍵を閉めてくれ」
教室の戸は教壇を挟んで左右の二カ所にあります。
講師の指示で反対側の戸の近くにいた男子生徒が鍵を閉めました。
その瞬間でした、廊下から怒号が聞えて来たのです。
何を言っているかわかりませんが、恐らくは警備兵の制止命令を聞かずに何者かが暴れているのでしょう。
「まさかこんなに早く非常時の鐘が役に立つとは思わなかったわ!」
先生達に全生徒が素早く警戒できる手段として鐘を鳴らす方法を提案していましたが、早くも役に立ったようです。
プリメラがセフィーロ様を見ますが、セフィーロ様は首を横に振ります。
「俺の役目はシルビアを護る事だ。警備兵の手助けをするのはシルビアが狙われていると確定してからだ」
クラスメイトは戸から離れて窓際に集まります。
セフィーロ様は最前列に立って前後の戸を交互に警戒している。
こ、来ないわよね? そうそう何度も私が襲われる事なんて……私を狙っているなら何度でも来ちゃうか。
そしてその考えは的中しました。
何者かが教室の戸を乱暴に開けようとして壊れそうになります。
警備兵は何をしているのかしら!
しかし声をよく聞くと侵入者は二人いるらしく、戸から離れた場所で剣戟が聞えています。
「まさか強硬手段にでたのか? どこの誰かは知らないが、俺の可愛い女の子たちを怯えさせるとは許せん!」
セフィーロ様は変わりませんね……しかしお陰で少し緊張がほぐれました。
戸に体当たりを始めたのか戸が大きく歪みます。
そして遂に侵入者が戸を破壊して教室に入り込んでしまいました。
「え……? なんですかあの姿は」
頭からスッポリと黒い布をかぶり、首できつく結ばれています。
目や鼻の穴は無く、両目のあたりに赤く長い縦線が入っており、その線は体にまで伸びています。
体は黒いローブを着ており、その両手には一本ずつ斧が握られています。
「
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