第17話

 私を襲ったウェイトレスが使ったナイフ、予想通り私が作ったぎ機で研いだと確定したようです。

 なので私は急いで店長あてに手紙をしたためました。

 懐かしいですね、店長は元気にしているでしょうか。


「シルビア、お父様に手紙を渡して来たわよ。あと頼まれていた事、順調にいってるみたいだわ」


「ありがとうございますプリメラ。では明日からはのんびりと暮らしましょう」


 今やれることはやりましたので、私達にできる事は普通の生活を送る事です。

 そうですとも、どうして悪魔教なんかに私の楽しく充実した生活を壊されなくてはいけないのですか? 意地でも元の生活をします!


 まずは今晩の夕食を美味しくいただきましょう。


「おはようございますですわプリメラ、シルビア。それとセフィーロ様」


「おはようリバティ、マーチ。あとリック」


 プリメラとリバティ様の挨拶が終わり、順番に挨拶合戦が開始されます。

 毎朝なので慣れましたが、最初は何て時間のかかる挨拶だろうと戸惑いました。

 いつものように席に座るとセフィーロ様とリック様が両脇に座り、同時に私に話しかけてきます。


「シルビアは座る所作も美しいね。ささ、今日は俺の膝の上に座ってもいいよ」


「シルビア……きょ、今日は僕の剣術の訓練を見に来ない……か?」


 膝の上は論外なので、リック様の剣術を見学させていただく事にしました。

 放課後になり剣術の訓練場へと案内されます。

 リック様はとても緊張していますが、ひょっとしてお邪魔だったのでしょうか?


 みんなでゾロゾロと訓練場にお邪魔しましたが、セフィーロ様も大人しく付いてくるのは意外です。

 やはり剣にたずさわる人間として興味があるのでしょうか。


「し、シルビア……あの……笑わないで……ほしい」


「笑う? 剣術の訓練でですか?」


 リック様が恥ずかしそうにそんな事を言ってきましたが、なぜ剣術の訓練で笑うのでしょうか。

 ひょっとして剣術が苦手で負ける所を見られたくない? そんな事で笑いはしませんが。


 リック様が訓練着に着替えに行き、戻ってきました。

 ……ああ、これの事でしたか。


「ぶわっはっはっは! いまだにその訓練着を使ってるのか!」


 セフィーロ様は大笑いしています。

 リック様の訓練着、いえこの訓練場の訓練着は鉄のヘルメットの内側に分厚い布が入っているので頭が縦長に見え、手や腕を保護するために木の腕当てと指のないモコモコの手袋、胴体もモコモコに膨らみ赤い胴当てが巻かれています。

 当たり前の様に下半身もモコモコ……不格好な雪だるまのような姿です。


「なるほど、その姿ならば訓練で怪我をする心配がないのですね。理にかなっています」


「そ、そうなんだよ、理にかなっている……はず」


 自信が無いのか最後は尻つぼみになっていました。

 ですが他の剣術の生徒に声をかけられ、私に手を振って訓練に参加します。

 型、というのでしょうか、木剣を構えて素早く決まった動きを繰り返し、それが終わると模擬戦が始まりました。


「懐かしくて笑っちゃったけど、あの格好には意味があるんだ」


「怪我を無くすためではなくてですか?」


「もちろんそれもある。でも一番の理由は格好をつけてギリギリで避けさせないためなんだ。学生のうちはギリギリで避けれる目が養われていないから、大体が失敗して大怪我をするんだ」


「そんな理由が。セフィーロ様もギリギリで避けないのですか?」


「俺は最近になってようやく出来るようになったよ。まぁ最初の頃は父上に何度も骨を折られたけどね」


 ほ、骨を⁉ 訓練で骨を折るって大丈夫なんでしょうか。

 

「お兄様はねシルビア、こう見えても騎士団では副団長をしているのよ」


「副団長⁉ それは凄いですね!」


「はっはっは、今のうちに唾を付けておいた方がいいよシルビア」


 模擬戦が順番に進み、次はリック様の番になりました。

 相手は……訓練着のせいで体格が隠されていますが、明らかにリック様よりも体が大きな人でした。

 リック様は背が大きいけどさらに大きく、モコモコの服の上からでも筋肉質なのがわかります。


「お、お相手の方は本当に生徒でしょうか?」


「ん? ああ彼は学年で二番目の子だね」


「そ、それではリック様が不利なんですか!?」


「まあ見ていればわかるよ」


 合図とともに模擬戦が始まりました。

 最初は相手の様子を見ていましたが、相手の方が木剣を凄い勢いで振り下ろします。

 あ、当たる! と思った瞬間でした、リック様の姿が無くなりました。


「あ、あれ? リック様はどこに??」


「シルビアあそこよ、相手の背後」


 プリメラが指さした先はリック様の対戦相手の背後……⁉


「いつの間に!」


 一瞬で相手の背後に移動したリック様は木剣を相手の横腹に当てていました。

 審判が試合終了を宣言して模擬戦は終了の様です。

 模擬戦が終わったのでリック様がこちらに歩いてきました。


「し、シルビア、見てて……くれた?」


「見ていました! 凄いですねリック様! 相手は学年で二番目と聞きましたから、今はリック様が二番目ですね!」


 一瞬回りが静かになります。

 あ、あら? 私は何かおかしなことを言ってしまったでしょうか?


「あっはっはっは! 流石だねシルビアは」


 セフィーロ様の笑い声と共に他の人も笑い出しました。

 

「あ、あの……?」


「し、シルビア、ぷぷっ、リックはね、学年一番目なのよ」


「え? ええーー!!」


「まぁリック君は小さなころから英才教育をうけ――」


 セフィーロ様がそこまで言うとリック様がセフィーロ様を睨みつけました。

 セフィーロ様も慌てて言葉を止めます。

 おや? 何があったのでしょうか。

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