第3話 水曜日「待ち合わせ」

年齢=彼女がいない期間。

今の時代珍しくはないだろう。

『彼女なんてめんどくさいだけ』『草食系』いやいや、全くそんなことはない。バリバリの肉食だ。


とは言え、社会人になって出会いは劇的に減った。

ダメを押すかのように会社はテレワークがメインになり、彼女を探すところか人との会話すら少なくなっている始末だ。


今まで躊躇していたのだが、出会いを求めてマッチングアプリを使ってみることにした。

マッチングアプリと言ってもいろいろある。

なんというか・・・体の関係がメインであったり、お金を払ってデートをしたり・・・そんな出会いがメインなアプリもある。


逆に健全なアプリも増えてきた。こんなご時世だ、僕のように出会いを求めている人は沢山いるようだ。

昔から結婚相談所や、お見合い。お見合いパーティなんてものはあったわけだし、単純にツールが変わっただけだ。


ということで、マッチングアプリをインストールしよう。

アプリストアで『マッチング』と・・・・・


ランキング1位は・・・・『De.AI』

『で・あい?』か?なんかダサいな・・・

評価がめちゃくちゃ高いぞ・・・星4.8。

でもなぁ・・・こういうのってサクラが評価あげているっていう噂も聞くしなぁ。

コメントは・・・・


『高度なAIがおすすめしてくれると言うことでしたが、びっくりしました。まさに理想の女性と出会えることができました。』


『他のマッチングアプリを使っていましたが、これを使ってたら今までのはなんだったんだろうというくらい素敵な人と出会えました。


『このアプリを使って出会い、今年の春結婚しました。AIに仲人をやってほしかったくらい感謝してます』


絶賛コメントばかりだなぁ・・・逆に怪しく感じちゃうんだよなぁ・・・・

否定的なコメントはないのかなぁ。


『AIで正確な情報でという触れ込みですが、プロフィールの情報入力の項目が多くて挫折しそうになりました。でも、そのせいか、かなり自分の好みにあった女性をオススメしてくれたと思います。でもやっぱり入力が長すぎで星マイナス1で星4です』


なるほどね・・・・

まあでも暇だからやってみようかなぁ。


アプリのインストール完了と早速起動してみた。


『性別を選択してください』

『男性・女性・その他▼』


まあ・・こういう時代だもんね・・・


『パートナーに希望する性別を選択してください(複数選択可能です)』

『男性・女性・その他』


うん?相手の性別にもその他?複数選べるならその他っているかな?

気になるな・・・

えーと「女性」「その他」もチェックしてみようかな・・・


あとで変更できるって書いてるし。


えーと、自分の年齢、住所、職業、身長、体重・・・

うんまあ、一般的なものだな、これ位はしょうがないよね


「年収」


あー・・・どうしよう悩むなぁ、少しだけ盛っちゃおうかなぁ・・・

いや、でも後でバレたら逆に恥ずかしいよな・・・素直に行くか・・・


自分の情報を一通り入力を終えた。

ふう・・履歴書を作ったことを思い出したよ・・・・・


次に求めるパートナーの情報ね・・・


年齢・・・職業・・・居住エリア・・・


まあまあ、そうね。実際に会いたいし近場がいいなぁ・・・

おっ・・・見た目と性格ね。


「身長」

うーーーん・・・・自分より低かったらいいかなぁ


「タイプ」

『可愛い系』だなぁ・・・


「スタイル」

・・・・・・・素直に書こう・・・『グラマラス』


「性格」

『明るい』でいいかなぁ・・うん、楽しい会話したいね。


一通り入力を終えたが・・・・あれ?パートナーの性別に『その他』もチェックしたんだけど、女の子のタイプしか聞かれなかったなぁ・・・まあ・・いいか


さて、終わりかな・・・

レビューに長いって書かれてたから構えちゃったけど、思ったより早くおわったな。


『ここからは、AIの分析のための質問となります。全て三択となっておりますので、直感でお答えください』


お・・・・そういうことか・・・・

えっと・・・質問数は・・え???100問???

なるほどね・・・・レビューに長いって書かれるわけだ・・・・


『それでは第一問です』


『犬派?猫派?どちらでもない』


え?こんな感じ?


「えーと、猫派」


『きのこの山?たけのこの里?どちらでもない』


まじか・・・


質問はわりとどうでも良いものが多かった。

しかし、たまに変な質問もあった。


『あなたは今砂漠を歩いています、そこに亀が仰向けにひっくり返っています、どうします?』

『助ける。助けない。わからない』


『店主が「2つで十分ですよ」と言っているが4つ食べれると自分では思っている。どうしますか?』

『2つにする。4つにする。わからない』


ふぅ・・・なんだかんだで30分もかかってしまった。

確かにレビュー通り心が折れそうになった。

就職活動の時のSPIテストを思い出した。


あとは、AIが僕にオススメの女性をまず紹介してくれるのか。


ピロ〜ン


おっ!!早速プッシュ通知がきたぞ・・・・


早速De.AIを開いてみた。


「え?」


10人も!!!


10人ほどの女性の写真と名前、そして僕との相性が%で表示されていた。

72%、76%、84%・・・・え?99%????


桜井彩さん

サクライ アヤさん、24歳、158cm・・・・Eカップ・・・・

やばい、顔もめっちゃ好み。ど真ん中だ・・・・

相性99%ってすごいな・・・

なになに?

『気になる女性がいたらハートマークを押してみてください。マッチングが成立するとメッセージの交換ができるようになります。』


ここは、彩さん・・行ってみよう!!!

僕は桜井彩さんにハートマークを送った。


5分後・・・・ピロ〜ン


プッシュ通知がきた!!

僕は急いでスマホを見た。


『はじめまして、新谷さん。ハートありがとうございます!相性99%ってびっくりしました。よかったらお話しませんか?』


『彩さん!!僕もです。こちらこそよろしくお願いします』


彩さんとメッセージのやりとりをした。

会話は初めぎこちなかったが、漫画や映画の話になってから会話が弾んだ。

僕の漫画好きは自他とも認めるかなりの物で、最近の漫画も昔の漫画も、少年漫画も少女漫画もメジャーな漫画もマイナーな漫画も読む。


彩さんもかなりの漫画マニアだった。

僕らは岡崎京子の『リバーズエッジ』古屋兎丸の『ショートカッツ』という漫画の話題で大盛り上がりした。


岡崎京子の『リバーズエッジ』は最近映画化もされた、知る人ぞ知る名作漫画だった。

もともと女性用ファッション誌に連載されていた漫画だったので、連載当時に男性はほとんど読んでいなかっただろう。

しかし、古谷兎丸の『ショートカッツ』はさらにマニアックな作品だ。

『ガロ』という、なんと説明すればよいのだろうか・・・純文学の漫画版?みたいなマニアックな雑誌出身の作者が初めてメジャー誌で連載をした作品だった。

連載されていたヤングサンデーはかなり尖った雑誌で、新井 英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』、沖さやかの『マイナス』など、問題作が掲載されていた。

とくに『マイナス』は雑誌の回収騒ぎが起きるほど・・・


おっと・・・つまり、こういう普通の人に話してもほとんど盛り上がらない話題でも彩さんとは盛り上がっていた。


僕と彩さんは週末にデートをすることになった。


デート当日、僕は緊張していた。

何を着ていこう、仕事はいつもスーツだったし、テレワークになってから外になんかあんまり出なくなったからな・・・ネット買っておけばよかったな・・・

まあ、無難で格好でいこう・・・あっ買い物して一緒に服を選んでもらうっていうのはどうだろう?

お礼に彼女にも服をプレゼントする。我ながら名案じゃないか?

とりあえずカフェで少し話をしてから映画を見て夕食を・・・なんて考えていたが、映画より買い物の方が、彩さんと沢山話ができそうだし、服の趣味とかもわかるし、うん。そうしよう。


おっと浮かれすぎだな・・・

まだ写真でしか彩さんの顔は見たことがない。

彩さんには失礼だとは思うが・・・・盛ってないわけがない・・・

いや、もうネット上たとえマッチングアプリでも写真は盛っているものだ。

常識になりかけてきていると思う。

『写真とぜんぜんちがう・・・』なんてないことを祈ろう。


電車にのり待ち合わせ場所に向かっていると


ブー


携帯のバイブがなった。


『新谷さんおはようごいます。もう向かってますか?私ちょっと楽しみにしすぎたみたいで、早くついちゃいました・・・・』


うぅ・・かわいい


『ほんとに?急いでいくね!1本早い電車に乗れたから少しつくと思う』


『大丈夫です、ゆっくりきてください。今日はこんな格好しています』

メッセージとともに首から下の自撮りの写真が送られてきた。


ああ・・タートルネックのセーター・・・・お胸が・・・強調されてちゃってるよ彩さん・・・・・


待ち合わせに着くとすぐ彩さんを見つけることができた。

初めはそのお胸に目がいってしまったが・・・・・

かわいい!!!!!!!!!!

プロフィール写真通り、いや写真写りがわるかったんじゃない?

と思うくらい本物の彩さんはかわいかった。


「なんですが・・・そんなに見つめないでくださいよ・・・照れちゃう」


「あっ・・・ごめん、ちょっと可愛くて見惚れちゃった・・・」


「もう・・はずかしいです」

彩さんは頬を赤らめて少しうつむいた。


ああああああ・・・・もうかわいい・・・・だめだ・・・もうだめだ

何もかもがかわいい・・・さすが99%・・・・

彩さんが許してくれるなら今ここでプロポーズしたい・・・・


「えーと、とりあえずカフェにいかない?こっから3分のところにパンケーキが美味しいって有名なお店があるみたい」


「いいですね!!」


『趣味カフェ巡り』ありがちな趣味ではあるが、彩さんのプロフィールに書いてあった。


「あっこのお店!!」


「え?」


「来てみたかったんですよ!!」


「ほんとに?よかった、昨日調べたら駅から近くて評判が良さそうだったから」


「昨日のうちから調べてくれてたんですか?」


「え?ああ・・・うん」


「ありがとうございます。うれしいです!」


デートはスタートからいい調子だった。

カフェでパンケーキを注文して、話を始めた。


「いやぁ・・ほんとに可愛くて、びっくりだよ・・・」


「何度も言わないでくださいよ・・ほんと恥ずかしいんで」


「いや、僕さ初めてマッチングアプリを使って人に会ったんだよ。なんていうか・・・プロフィール写真は盛られてるっていうか、加工されているもんだと思っていたからさ、写真より可愛んだもん」


「あはは・・でも、加工した写真をアップしちゃったら、会った瞬間に「あっ・・・」ってなって気まずくなっちゃうじゃないですか?」


「たしかにそうだね」


「新谷さんも思っていたとおりの人でよかったです、チャットでお話はしたけど、こうやって話しても、はじめて話してるって感じが全然しないし。」


「うん、僕もそう思ってた。いやぁ彩さんもなかなかのマンガマニアだしねー、あそこまでマニアックな話したの初めてだよ」


「いえいえ・・ただのオタクですよ」


オタクでもいいよ・・・こんなに可愛いんだもん。

パンケーキがテーブルに届いた。


「おいしそ〜ほんとに1人前で十分でしたね、すごい大きい」

彩さんはそういってパンケーキを取り分けてくれた。


「写真とかとらなくていいの?」


「え?あっはい、私SNSとかあまりやらないから」


パンケーキを食べながら話を続けた。


「あっあのさ、この後なんだけど、映画は今度・・来週にでもして一緒に買い物に行かない?」


「え?いいですよ!」


「いやぁ・・・テレワークになってから外に出る機会もへっちゃって、服とか全然買ってなくてね・・今日も何着てこうこようか、めっちゃ悩んじゃってさ・・・彩さんに選んでもらいたいかなぁ・・・・って」


「え?ほんとですか?ふふ、私色に染めちゃいますよ笑」


「まじ?お礼に彩さんにもなにかプレゼントするからさ」


「いえ、そんなの悪いです。」


「いや、じゃあさ、来週の映画・・俺彩さんに選んでもらった服きてくるから、彩さんも・・プレゼントした服きてきてよ」


「え?はい・・・ほんとにいいんですか?」


「もちろん」


我ながら上手い展開に持っていけたと思う・・・一緒に買い物をして仲よくなって、さらに来週の約束も・・・っていうかさ、もうこれ付き合ってるじゃん???


「いやぁ・・・ほんと99%だよ・・・いや100%だよ・・・アプリってすごいな」


「・・・・・私プログラマーやっているって言ったじゃないですか」


「うん」


彩さんは少し真面目な表情になって話し始めた。


「あのAI、業界でも結構有名なんです、すごい性能だって。」


「へーそうなんだ」


「で、もう一つ噂があって・・・・・」


「え?なになに?」


「新谷さん『De.AI』の画面だせますか?」


「え?うん」


僕はスマホを取り出し『De.AI』を開いた、彩さんも同じくスマホを出した。


「やっぱり・・・・」


「???」


「ほら、見てください、新谷さんと私のプロフィール。表示されている情報量が全然違いませんか?」


「ほんとだ・・・・」


「こういうアプリで良くあることなんですけど、女性が優遇されているというか、女性のほうが機能が充実しているというか・・・やっぱり女性が多い方が男性も沢山集まるので」


「なるほどね、聞いたことあるよ」


「それで・・・こっからが本題なんですが・・・・」

「このアプリ、入力した情報以外の情報もつかってAIが解析してるって・・・」


「え?どういうこと」


「ハッキングです。スマホの他のアプリとかをハッキングして情報を得てるって」


「えええ!」


「たとえば・・・・この新谷さんの今日の健康状態、やや睡眠不足、運動不足気味って、これ多分ヘルスデータアプリから抜かれてるんだと思うんです」


「まじか・・・」


「SNSからもかなり情報は抜かれてるって噂です」


「ほんとならやばい話だね・・・・」


「それで・・・こういう情報も・・・・・」


彩さんは自分のスマホの画面を見せてくれた。

僕のプロフィールの・・・・・『性的趣向???』

『巨乳好き、コスプレもやや好む、M女好き』


「え?」


「こういう情報入力しました?

多分ですけど・・・検索している画像とか・・・動画を・・・・」


「いや、してない・・・こんなことまで?まぁ・・・合ってるけどさ・・・」


「業界では、そのうちこのアプリ使用できなくなると言われてます。」


「本当だったら、プライバシーもあったもんじゃないもんね・・・・」


「私もアプリで人に会うの初めてなんですけど、この間、新谷さんと99%が出た時、会ってみて本当に良かったら、もうこのアプリ削除しようと思ってて」


「え?はじめてなの?彩さんなら引く手数多だったんじゃ?」


「そんなことないですよ・・・99%の人なんて初めてです。」


『性的趣向もデータに入った上で・・・99%か・・・・むふふ・・・』


「そっか、でも良かったよ・・・・なんか・・・今言うことじゃないかもしれないけど、99%を信じるわけじゃないけど。会ってみてもやっぱり二人の相性は本当に良いんじゃないかって感じて」


「・・・はい、私もです」


「よかったら、付き合ってくれませんか?」


「私で良かったら・・・・こちらこそお願いします」


「ほんと?やった・・・しかしほんと99%はすごいよなぁ・・・・」


「そうですね・・この項目チェック入れる人少ないですからね」


「え?なに?どこ」


『相手、求めてる性別:女性+その他』


「あっ・・・それ・・・・・その他・・・・」



「私アンドロイドなんです」

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