仔羊のダンテはシャイだそうだ
@xiantee
プロローグ
凶悪犯ばかりを収容するケルク・ジュール監獄が作られたのは、先日病死と公表されたシードル・タラセンコの為であった。
犯罪者を逃がさぬ為でなく、万一逃げたとしても無辜の民に被害が及ばぬよう絶海の孤島が選ばれたのだ。元は無類の人嫌いである持ち主が要塞型の城を建てていたのを子孫から買い取り流用したもので、絶海の孤島であってもセキュリティは聖都の聖女宮と並ぶ厳重さである。
タラセンコの死後であっても刑期が千年を超える受刑者を抱える為にセキュリティのレベルを落とすなど考えられなかった。急がれたのはタラセンコの本当の死因の為に歪められた封鎖魔法を正常にし、さらにこの機に最新の魔法術を導入してセキュリティのレベルを上げることだった。
歪み綻びた封鎖魔法を凶悪な受刑者達は許される限りの魔力で攻めたから、封鎖班の人員の交代と魔法の掛け直しは一分一秒を争い、人員の背景を精査出来ぬままに投入された。
そして危惧された通りに反政府的人物が紛れ込み、歪んた封鎖魔法に穴を開けられてしまった。
「穴を塞ぐ間に囚人の首輪を絞めて動きを封じて!」
班長のジャンヌ・デロンシャンは叫んだが、部下からは悲愴な答えが返って来た。遠話の声が本部内に響く。
「ダメです。首輪担当の魔法師が真っ先に殺されました!何人か首輪から解放されたようです」
そしてスタッフには最悪の感覚が伝わってきた。島内各所に敷設された魔法陣が次々と破られている。
「特別監房の魔法を強化して⁉アルバン!」
最悪そこだけは死守したかったが、
〔三号房と五号房は突破された……〕
弱々しい思念が届く。
〔攻撃された。ポールがやられた〕
「アルバン。直ぐに誰か向かわせるわ!だから保って!ラッジは?」
彼らが担当するのは千年超えの囚人が収容された特別監房と一級監房だ。万一の時の為に看守達も同行しているはずなのだ。看守達は何をしているのか。
ジャンヌの指図で数人の看守が走った。
〔ラッジと看守達は死に物狂いで闘ってる……だから遠話出来なかった…僕も…何とか息してる間は守り抜く〕
「アルバン…」
封鎖に専念する為に思念が途切れた。
「ぶっ殺してやる⁉八つ裂きにしてやるわ!」
誰を対象としたジャンヌの発言なのかは問わずとも解かる。それは封鎖班全員の気持ちだった。アルトワ・ルカス最凶の囚人達を解放しようと企み、実行した連中を草の根分けて探し出して、この手で八つ裂きにしてやると誓った。
解放された監房から囚人の一部が復讐の為に本部に殺到してきた。分厚い扉が攻撃魔法で変形しては戻る。
〔班長〕
また一つ思念が届く。
〔二人になりました。ラッジと俺です。敵、一人だけど滅茶んこ強いです〕
「援軍が向かってるわ、何とか頑張って」
遠話を送る。
(間に合って⁉)
「班長!援軍です。島を囲んでます⁉」
沿岸で作業していた部下から遠話が届いた。
「封鎖の穴から入って来ます」
遠話の主は歓声のような報告を島中に拡散させた。
「
〔やった!〕
〔ありがとう〕
複数の思念が届く。
集団転送された連隊は転移出来る兵は島内に転移し、島の周囲を守る兵が騎獣を召喚し出した。
首輪が無くなっても脱走に成功した囚人もこれで捕まるだろう。
本部に殺到した囚人が逃げ始めると待っていたようにフェリシテが動いた。
「特別監房に行って来るわ」
「お願い」
フェリシテは治癒魔法も使えた。間に合えば助かる者も多いだろう。
思った通り大半の囚人は倒されるか捕縛された。だが何としても捕まえて欲しかった特別監房の二囚人は、追跡を躱して行方を晦ましてしまった。
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