フリ…

〈ユメノ視点〉










マリコ「なんて言うか… 波瀾万丈?」





「・・・・昭和臭くてやだ…」






あの後…

由季ちゃんに駅まで送ってもらい

実家には帰らずに

麻梨子のマンションに泊めてもらった




奥の部屋でたっちゃんが寝ているから

小声で話ながら麻梨子の作ってくれた

サングリアをチビチビと飲んでいるけど…






マリコ「・・・美味しくなかった?」





「いや…久しぶりのアルコールで

  なんか回るのが早いって言うか…」





今日も4時過ぎから起きていたし

餅つきなんて慣れない事をしたし…




時計の針はとっくに日付を跨いでいて

いつもなら寝ている時間だ…






マリコ「あの夢乃が2ヶ月禁酒とはね…笑」





「・・・別に毎日飲んでたわけじゃないわよ」






麻梨子は「はぁ…意外」と可笑しそうに笑って

空になった自分のグラスに

サングリアを継ぎ足しているから

「そんなに面白い?」と

唇を尖らせて問いかけると

麻梨子クリッとした目をコッチに向けてきて

「ぶっ!」と吹き出した…





マリコ「だって!あの夢乃が

   毎朝早く起きてセコセコと

   何もないお寺で働いてると思ったら…笑」





「・・・・・・」





マリコ「鶏の世話に他人の靴下洗ったり」


 



「靴下じゃなくて足袋たび!」





マリコ「最後には姑を庇って

   町内会の餅つきまで出てきたの?笑」






麻梨子はテーブルをバシバシと叩いて笑っていて

眠っているたっちゃんが

起きても知らないからと思いながら

袋を大きく開けられた

ポテトチップスに手を伸ばした





マリコ「いやぁ…ついにバチが当たったか…」





「何の罰よ…」





マリコ「今まで何事も軽く考えて行動してきた罰よ」






さっきまでは顔を崩して笑っていたのに

今は眉を寄せて「分かってるの?」と

人差し指を立てて説教くさくなりだした…





マリコ「不動産の何とか君は…

  だいぶヤバイ奴だけど原因は自分なんだからね?」






「・・・キスしてきたのは向こう…」






マリコ「だいたい24にもなって

   引っ越し資金がないのもあり得ないの!」






「・・・だって…美容室代とか…」





マリコ「身の丈に合った

  生活をしなさいって言ってるの!!」





麻梨子の言葉を聞いて

あのシャンプーを買いに行った時の

美容室のオバさんの表情を思い出し

また嫌な気分になった…





( 他人のシャンプー代にぶちぶちと… )






マリコ「とにかく!

  少しは身に染みただろうし

  約束のお金をもらって

  とっとと部屋探しなよ」






「・・・まだ3ヶ月先だよ?」






マリコ「えっ?だってそのお坊さんは

  仏壇屋の娘とお見合いするんでしょ?」






何も答えずにパリッと

口の中のポテトチップスを噛むと

今…1番思い出したくない

おじさんの顔がフッと浮かんできた





( ・・・怒ってた… )





おじさんからはいつも

眉を寄せた顔や呆れた顔を向けられていたけど

今日のおじさんは…本気で怒っていた…






マリコ「・・・何?まさか帰るの??」





「・・・・・・」





帰りたくはなかった…

あんな顔を向けられて

ひょこひょこ帰れる程私は強く無いし

また睨まれるのが怖かった…





( ・・・・でも… )





マリコ「・・・ねぇ…分かってるわよね?」





「何が?」と麻梨子に顔を向けると

麻梨子はグラスをテーブルに置いて

「フリだからね」とテーブルを

小さくトントンッと叩いて

まるで小さな子に言い聞かせる様に話し出した






マリコ「夢乃はお寺のお嫁さんじゃないし

   そのお坊さんの婚約者じゃないの!」





「分かってるわよ…」





マリコ「ぜんっっぶ!お芝居なの!」






分かってるって言っているのに

話を止めない麻梨子にムッとして

「だから分かってる」と言うと

麻梨子は「だからダメよ!」と言ってきた






マリコ「・・・お芝居フリなんだから

   本気になっちゃダメだし

   絶対に好きになっちゃダメ!」





「・・・・・・」





マリコ「万が一…好きになったとして…

   夢乃、そのお寺に一生住めるの?」





「・・・へっ…」





マリコ「今は春までって期間限定だから

   なんとか我慢出来てるかもしれないけど

   その貧乏寺で…ずっとやっていける?」






( ・・・ずっと? )










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