二度目の…
〈ユメノ視点〉
平日しか予約が空いてなく
占いの館から出て来た時には
通学、通勤の帰宅ラッシュの時間に
差し掛かっていて
満員電車に乗るのはゴメンだと思い
前回の様に金欠で買えもしない洋服を
手に取って眺めるを繰り返していた
( 引っ越し資金どうしよう… )
2ヶ月先の冬のボーナスまで
待つべきかなと考えながら時間を潰し
特急料金ももったいなくて
普通列車に揺られ長い時間をかけて帰り
マンションに続く道をトボトボと歩いていると
「それじゃ」とお酒の入った陽気な声が聞こえてきて
顔をあげると飲み屋街から少し離れた場所にある
お高いふぐ料理専門店から
スーツを来たおじさん達がゾロゾロと出てきて
タクシーの前で「いやいやいや…」
なんてやりとりをしていて
早く行ってよねと思いながら立ち止まっていた…
騒いでいたおじさん達は
それぞれのタクシーへと乗り込み
最後の一台が走って行ったその場所には
スーツの男と料理屋の女将さん風のおばさんが
お互いに頭を下げ合っていて
クルッと向きを変えてコッチに歩いて来た
スーツ男の顔には見覚えがあった
( ・・・・んっ… )
「・・・ぁっ!」
アオシ「・・・・あぁ…」
前回の占いの後に会った失礼なおじさんで
一気に不吉に感じて見えた…
( ・・・あの日も会って…今日も? )
占いの後に必ず現れる
この顔だけが取り柄のおじさんに
胸の中で小さく舌打ちをして
おじさんの左手にチラッと視線を移した…
人と人には必ず糸が結ばれていると
あのおばさんが言っていた事を思い出し
このおじさんと私に繋がっている糸は
試練の青い糸なのかと思いながら目を細めると
「卑しい女だな」と言われ
「へっ?」と顔を上げると
左手を私に向けて上げた…
アオシ「そんなに食いたいか?笑」
おじさんの左手には
直ぐ後ろにあるふぐ料理屋の印の入った
紙袋が握られていて
お土産の品だと分かったし…
それを物欲しそうに眺めていたと
勘違いされているのも分かり
ムッとしたけれど…
「・・・ちょうだい!」
そう言って手を伸ばすと
おじさんは「ハッ?」と目を大きくして驚き
何言ってんだと言うような顔をしている…
「いい歳越えて冗談なんてやめてよね
言ったからには責任持って頂戴よ!」
アオシ「・・・・卑しいどころか…
羞恥心のかけらもねぇ女だな」
「・・・・・・」
知り合いでも無いこのおじさんに
お弁当を頂戴と言っている
今の私は…哀れで卑しく見えるだろう…
( ・・・でも…お腹空いたんだもん… )
占い代と交通費で1万円近く飛んだし
朝はパンとコーヒーですませ
家を出てからはコーヒーを2杯飲んだだけで
お昼も夕飯も食べていなかった…
帰って冷蔵庫の中を覗いてみようと思いながら
卑しく伸ばした手を下ろして
おじさんの横を通り過ぎていると
「おい」と呼び止められ
何故そうされたのかも分かり
お腹に手を当てて顔をプイッと逸らした
アオシ「飯食ってないのか?」
「・・・・・・」
アオシ「腹は…正直だな…笑」
何も答えないでいると
さっきよりも大きく鳴る
自分のお腹に恥ずかしさを感じ
ツカツカと早足でその場を去ろうとすると
「食うか?」と聞こえてきて
揶揄っている様な声色ではなかったから
足を止めてクルッと踵を返して
おじさんの所に戻ると
「はっ…」と呆れた様に笑い
私の前に紙袋を差し出して来た
( ・・・・喉元過ぎれば何ちゃらよ… )
恥ずかしさも一瞬だけだと思いながら
受け取り紙袋の中を覗くと
淡い赤と紫色の布で包まれていて
より一層中身を期待した
「割り箸はついてる?」
アオシ「コンビニじゃねぇんだから
帰ってから自分家の箸で食えよ」
「・・・あっ!ついてる!」
手でゴソゴソと触ると
中に割り箸があるのが分かり
良かったと思いながら「ありがとうございます」と
顔も見ずにお礼を伝えて今歩いて来た道を
戻ろうとすると「アッチじゃないのか?」と
聞いてくるおじさんに「公園で食べるの」と
答えると「はぁ!?」と後で声を上げて
歩く私の後を追って来た
直ぐ近くにある公園の敷地に入り
設置されているベンチに腰を降ろすと
ガサッと足音を立てて
「家で食えよ」と呆れた声で言いながら
直ぐ横にあるベンチへと座り
スーツの胸ポケットから
タバコを取り出しているおじさんに
「10分で食べるから」と言って
紙袋から薄手の布に包まれた
長方形の箱を取り出した
流石の私もこんな22時前の
誰もいない公園に一人でいるのは…怖いし…
おじさんがついて来ているのを見て
少しホッとしていた…
( 家にこんなの持って帰れないし… )
パカっと箱を開けると
デパートの地下で売っている
豪華な幕内弁当よりも
高そうで美味しそうなお弁当が見え
口の端がニッと上がり
「いただきます」と言いながら割り箸を割った
アオシ「・・・・その食いっぷりじゃ
ダイエットなんかじゃないみてぇだな」
「こへぇこお…し…い」
アオシ「食いながら話すな」
見た目以上に美味しいお弁当に
幸せと思いながらムシャムシャと食べていると
「そんなに美味いか?」と
また呆れた様な声が聞こえてきて
首をコクコクと縦に振ると
タバコを吸いながら「そいつは良かったな」と
誰もいない暗い公園に目を向けて黙っていた
「・・・・おじさんさぁ…」
アオシ「おじさん!?俺がか?笑」
「おじさんっていい所のサラリーマンなの?」
おじさん呼びに納得はしていないみたいだけど
そんな事よりも隣りのベンチにいる
おじさんの身なりを見て
ただのサラリーマンじゃない気がして
そう問いかけると
「普通のサラリーマンだぞ」と返ってきたから
お弁当を持ったまま立ち上がり
おじさんの姿をジッと見て
やっぱりただのサラリーマンじゃない気がした…
( そのスーツ… )
サラリーマンのスーツには5種類あり…
新入社員や入社2〜3年目が着ている
リクルートスーツと
27歳辺りから30代後半までが着る
そこそこいいデザインとお値段のオシャレなスーツ…
そして世帯持ちの50代の少しくたびれたスーツと
60代を過ぎるともうスーツには見えない
変な甘露をまとっているスーツ…
それはあくまでも一般的なサラリーマンで…
高収入取りの外資系や売買専門の不動産に勤めている
サラリーマン達にだけ漂う独特のオーラを放つ
( あの…スーツ…だよね? )
少しスーツフェチな部分もあり
あのバーで会った時よりも
カッコ良く見えるおじさんに
ホント顔だけが取り柄だなと思っていると
アオシ「また懲りずに運命なんてもんを
感じてんじゃねぇだろうな?」
「おじさんはもう引っかかってるからムリッ!」
麻梨子の言葉を使いそう言って
自分が座っていたベンチに腰を降ろして
またお弁当の箸を進めた
アオシ「引っかかってる?なんだそりゃ?笑」
「・・・・とにかく!
おじさんに運命は感じてないし
今は…60%だけで手がいっぱいなの!」
アオシ「60%…変な奴だな…笑」
「ご馳走様でした」と手を合わせて言い
紙袋にお弁当をしまい「ありがとうございました」と
もう一度お礼を伝え紙袋を差し出すと
目をパチパチとさせた後に直ぐに
眉を寄せ「何の真似だ」と言うおじさんに
「だからご馳走様って…」と
紙袋をクイッと上げて一歩近づくと
アオシ「俺に持って帰れって言ってんのか?
その食い終わった、ゴミを?」
「おじさん盗み聞きして知ってると思うけど
アタシ彼氏と住んでるしこんなの持って帰れないし」
アオシ「落ちてたとでも言って持って帰れよ」
「いやいや…流石にその嘘はダサいよ…笑」
いくら顔が良くても
おじさんはおじさんだなと思いながら
「ハイッ」と無理矢理手に紙袋を握らせて
「ありがとねーッ」と走って逃げる様に帰った
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