第6話『夢』

 真っ白い空間が広がっている。

 目の前に光る人型の存在。


 「ここはどこですか?これは…夢?」

 「肉体から離れた魂が存在する場所、5次元空間だ」

 「幽体離脱したってことですか?」

 「平たく言えば、そういうことだ」

 「全然実感が湧かない…」

 「よくここまで辿り着いた」

 「あなたは?」

 「先ほど読んでいた本に出てきていたぞ」

 「まさか…アヌンナキ?」

 「兄のエンキではなく、弟のエンリルの方だ。私がお前たち人類を作り出した」

 「シュメール神話は本当だったんですか?」

 「あぁ」

 「じゃあ、あなたが僕の本当の父親…」

 「そういうことになるな。だが、お前の父親であると同時に、お前の息子でもある」

 「ど、どういうことですか?」

 「お前たちの進化した先、遠い遠い未来に我々アヌンナキが生まれたのだ」

 「え、でもあなたは過去に僕らを創造したって…」

 「そこが分かりにくいポイントだ。お前は親殺しのパラドックスを知っているか?」

 「はい、過去に行って親を殺したら自分も消えるという…」

 「そうだ。だから、我々は人類を殺すことは出来ない。人類を殺した時点で我々の存在が消えるからだ」

 「そんなことって…」

 「更に言えば、我々の存在する世界線に辿り着かない可能性は排除しなければならない」

 「だから、その都度、人類に介入していたんですね」

 「お前は賢い子だ。私も誇らしいぞ」

 「ありがとうございます。でも、どうして僕をここに呼んだんですか?」

 「私は疲れたのだ、この輪廻に。もう終わりにしたい」

 「というと?」

 「人類が我々の存在する世界線を選ばないようにして欲しい。そうすれば、自然と我々は消える」

 「でも、どうやって?」

 「火星移住が真剣に検討されているのは知っているな?」

 「はい、地球がもう住める星で無くなる可能性が高まってきたので、火星に移住しようという話ですよね」

 「そうだ。もうじき第三次世界大戦が起きる、核戦争だ。そして、いよいよ地球は人類の住める星では無くなってしまう。それを止めて欲しい」

 「それが、あなた方の未来にどう繋がるんですか?」

 「我々はお前たちと同じく、地球から生み出された存在だ。ガイア理論は知っているな?」

 「はい、地球が一つの生命体だという説ですよね」

 「説ではない、事実だ。地球は意思を持っている」

 「はぁ」

 「地球の意思によってお前たちが生み出された。だが、我々は地球を裏切った。地球を見限って他の惑星へと逃げたのだ」

 「なるほど」

 「だが、我々の魂の故郷は地球だ。それで、恐らく地球に戻ってきてしまったのだ」

 「地球の引力からは逃れられなかったんですね」

 「そういうことだ。それでこの輪廻が生まれてしまった。仏教の輪廻転生の概念は知っているな?」

 「はい、魂は不変で、死んでも来世で生まれ変わるっていう話ですよね?」

 「そうだ。解脱とは輪廻転生からの解放を指すが、正に我々が陥っている輪廻からの解放が、真の意味での解脱なのだ」

 「なるほど。でも、僕は政治家でも無いし、僕にはこの世界を変える力なんて無いです」

 「そんなことはない。私との会話、それをそのまま物語として語り継いでくれればいい。きっと地球がその意思を汲み取って、その物語を自然と広めてくれるだろう」

 「そんなもんでしょうか?」

 「あぁ。そして、自然と第三次世界大戦は回避される。全ては地球の掌の上で起きることだ。さて、もう別れの時間だ。お前が真実に辿り着いたおかげで私の存在もそろそろ消える時間だ」

 「そんな、こんなに分かり合えたのにさよならだなんて…」

 「私とお前は本来そういう関係なのだ、仕方がない」

 「またどこかで会えますか?」

 「いや、もう会うことは二度と無い。これが最初で最後の親子の会話だ」

 「お父さん…」

 「息子よ、強く生きるのだ。今の地球は変革の時期なのだ。

 人類は意図的にある遺伝子がノックアウトKnock-outされてきた。それは共感遺伝子と呼ばれるもので、ジャンクDNAと呼ばれるゲノム上の機能が特定されていないDNA領域、そこに存在している。お前たち精神病院に入院するような進化した人類は何かの突然変異、今思えばそれは地球の意思による突然変異なのだろうが、それにより共感遺伝子が機能する状態で生まれてきた。

 お前たちは現代の社会に生きづらさを感じていないか?それは、社会の多数を占める人類が共感遺伝子を欠損しており、いたずらに他者に共感しない、社会の歯車になることに疑問を持たない、そういう存在へと成り果ててしまったからだ。

 人と比べるな、嫉妬するな。その先に待つ未来は第三次世界大戦、更には私とエンキの決別を生み、輪廻を生む。悲劇的な結末しか待っていない。

 お前は優しい、恐らく人類の中で最も優しい子だ。お前は緑藻に共感することが出来た。そんな人類は他に居ない。お前がアクションを起こせば、きっと地球が助けてくれる」

 「分かりました、頑張ってみます」

 「じゃあな、人類を頼んだぞ」

 「さよなら。そしてありがとう、お父さん…」

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