第49話 黒木レイ2 下

 そのままいつの間にか眠ってしまい、朝の光で目が覚める。

 何も夢を見なかった。


 部屋にあるホームディスプレイが自動的に時間を宙に映し出すと、アラームが鳴る。

 普段なら学校にいく時間だ。

 だがここ一か月は学校にはいっていなかった。


 ふとホームデバイスに置きっぱなしのスマホに視線をやる。

 さまざまな着信があったようだ。クラスの友達からも心配する連絡が入っているし、魔導官関係者の名前もある。

 桐谷、権藤、西岡、西岡、西岡。西岡の名前も目立つ。


「ごめん、西岡君」


 彼には悪いが今のところ連絡をする気はない。

 それは救われた負い目があるからなのか。事件調査の足手まといになるからか。よくわからなかったけれど、返事が思いつかず、何も返していなかった。


 しばし考えて、大丈夫というスタンプを一つだけ送る。

 元気であることを一旦伝えればいいだろう。


――自分の親のことを言いたくないからかも。


 他の人間にも適当に返す。あまり返事に時間は掛けられない。


 桐谷には連絡を取っている。

 鬼の言葉を伝えたうえで、父と魔法の関係を調べたい。

 捜査に専念したいと。

 学校にはしばらく休むという旨を連絡してもらっている。


 ただ、魔法の使用を禁じられた。

 呪の影響が強く出てしまっているらしい。自分としての自覚は下腹部の痛みと出血。いつの間にか作られていた女性としての器官――子宮が炎症を起こしてると魔導医のマヤは言っていた。


 そして逆流の呪は、今回の発動で私を完全に女性としたということだった。

 特に感慨はない。

 いずれそうなるのはわかっていたのだから。


 問題はこのあとだ。

 どう逆流していくのか。

 首元に触れる。


 そこには生体プラスチックでできたフタがあった。

 首元には安易にグリモワールに繋がないようにということでフタがつけられてる。容易に外れるのだが、心意的なバリアになるとかで。


 だが私はフタを取り外すと、ケーブルをコンピュータに接続した。

 グリモワールが起動する。


「まだ諦めるわけにはいかない」


 わざと口に出す。

 そうでもしないと心が折れてしまうから。


 今自分の手持ち魔法は、剣、目、楯の三つだ。

 この間の戦闘で剣は通用せず、目があってぎりぎり魔法を避けられたという状態だ。


 いつあれと戦いになるかわからない。

 もっと強力な魔法、有効な戦略を考えなければならない。


 剣の魔法を編集モードで開く。

 魔法の威力を引き上げる方法を考える。

 単純に供給する魔力量を引き上げることで、威力をあげることは可能だ。ただし、使用回数が減ってくるということになる。


 剣の魔法は、パラメータで紅剣が殺傷力弱い。魔剣が殺傷力強い。というように設定している。

 効能は、手に持つものを魔力で包む。


 それを端に包む場合と、刃をつける場合で分けている。

 刃のコードを、もっと薄くしてみる。ただ以前実験した限りでは、日本刀と同じで無暗に薄くしたからといって、無限に切れ味があがるというわけでもなかった。刀は斬るが、剣は叩き斬るの違いのイメージだろうか。


「重くするというのも手か」


 色々とコードを眺めながらアイデアを考えて、重みを付け足すことにした。

 コンパイルし、エラーがなく動作したことを確認すると、口早に唱える。


「カラドボルグの蒼剣を」


 問題なく、手にしたボールペンを中心に青の剣が生成される。

 しかし。


「痛っ」


 下腹部に痛みが走り、集中力が切れ、魔法が消滅する。


「この程度で、こんな痛みがあるなんて」


 うめく――と。


 ホームのアラームが鳴った。

 捜査のため、あの刑事と会う約束をしているのだ。


 桐谷の指示で捜査一課の刑事と組まされていた。まだ若い刑事で熱血タイプだ。といっても私よりは年上なのだが。


 真面目な男で、私が話しかけるたびに真っ赤になっていた。女性に慣れていないらしい。

 ちょっと西岡君を思い出す。


――自分の正体を知ったらどんな顔をするだろうな。


 これもまた桐谷の指示だが、魔法のことはいうなといわれている。


 なかなか信じられないものだし、一般の警察官には魔導課のことはあまり明確にするなという上からのお達しらしい。


 上は魔法が一般化するのを恐れている。

 だが、敵の狙いはおそらく魔法を広げることだ。

 理由はわからないがな。

 そう桐谷は言っていた。

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