第41話 豚どもが

 テレビ中継。

 

 球場の様子がニュースで流されている。

 何度も爆発が起き、死人も出て、大勢の人たちが命からがらで逃げてきた、ということを繰り返し報道している。

 テロップには、甲子園予選で爆破テロ事件か?という見出しだ。

 

 無意味にヘルメットを被ったアナウンサーがけたたましい口調で、何度も連呼する。


「犯人グループからの声明文はありません。ですが、目撃証言では高校生二名が人質となっている模様です。あ、今、機動隊が到着したようです!」


 カメラが到着した車に向けられる。

 大勢の武装した警官たちが車から降ろされていく様子。


 画面が切り替わり、

 球場にいたという男女の話。

 突然ピッチャーが苦しみだし、試合が中断された。

 そのあと、観客席から女の子が飛び降りた。

 黒い煙が立ち上り、球場の関係者が巻き込まれた。


 別の目撃者の話。女子高校生の話。

 死体をはじめて見た。

 そのあと何度も爆発が起きた。

 現にヘリから球場を見ると、グラウンドには大きな穴が複数開いているのがわかる。


 犯人の目的は不明。また、既に犯人は逃亡したとみられ――


  ◆


「桐谷君」


 目の前には複数人の警察庁の上層部が映し出されているディスプレイが連なっている。

 まるで裁判にかけられた被告人のように感じる。

 警視総監に、警視監。直属の上司たる刑事局長。

 あまり知らない顔がいる。

 防衛省の関係者のようだ。


「君のところの警察官、たしか魔導官といったかね、彼らが入ってこのざまかね。なんとか爆破事件で落ち着つかせられたからよかったものの。魔法などという茶番が世に出てしまったらどうなったと思うんだね」


 刑事局長が詰問口調で問うた。


「申し訳ございません」


 頭を下げる。


「君ね、謝ればいいと思ってはいかんよ。再発防止策はどうするのか、書面で提出しなさい」

「やはり、ここは我々自衛隊も協力すべきではないですか?」

「しかしね。自衛隊では目立ちすぎるでしょう。市民に余計な疑念を抱かせかねない」

「ですが、聞けば今回向かった魔導官は、少女だったとか。それはまずいんじゃないですか。どういう指示だったのか。危機感のなさを感じますな」


 次々と意見が垂れ流される。

 桐谷は深々と頭を下げると、顔を上げる。


「魔法には、幹事長も深く興味を持たれております。どうか懐深くみてやってください」

「な、何、幹事長が?」

「近いうちにみなさまには、魔法というものをこの目で見ていただきたく存じます」


 そういうと再度最敬礼の姿勢を取る。


「まあそういうことなら、魔法とやらの検討会を開かざるを得ないか」

「ありがとうございます」

「……どうせなら、先ほどの少女に実演してもらうのがいいんじゃないのか。なかなか容姿端麗で優秀と聞いたぞ」


 と脂ぎった好色そうな笑みを浮かべる。


「そうだな。あまり大袈裟にするのもよくないしな、若手のほうがいいだろう。どうだろう桐谷君」

「……かしこまりました。そのように」


 そのあともいくつか、どうでもいい話があり、ぷつんとネットワークが切断された。

 ようやく解放されたらしい。

 桐谷は、ネットワークを切断し、唾棄するように呟く。


「……くだらん豚どもが」


 今はまだ頭を下げるしかない相手だ。

 だが徐々に世界は変わっている。


 報告によると命には問題ないもののレイは重傷。背中に深い傷を負って、無茶な魔法の使用により呪の影響もあるということだ。

 問題はレイがそこまでしても勝てない相手がいたということ。

 そして西岡タクヤの存在。


 現場近くにいた魔導官によると、空が明るくなるほどの魔法を放ったということだった。

 しかも、彼は魔力がなくなってへばる様子もなかった。

 これが彼の呪によるものなのか、それとも特別魔力が大きいのか。


「魔法が世間に知れ渡ったとき、頭を下げるのはそちらのほうだよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る