第9話 対処
「村上君」
背後から声が聞こえた。急に女性の声が聞こえて、びくりと体を震わせたが声が全然違う。俺は呼吸を整えつつ、振り返るとそこには一人の女子生徒が立っていた。
「黒木さん」
最近気になっている同級生の少女がそこに立っていた。クラス委員だから教師に様子を見に行くようにいわれたのかもしれない。心配してくれている可能性もある。相変わらず見惚れるように白く輝いてる。肌が白いせいだろうが。
これはチャンスかもしれない。
俺はふっと微笑むと、
「あ。ごめん、心配かけちゃった?もう大丈夫だから」
なんでもないように見せる。
彼女は少し小首をかしげると、
「……何かあったんじゃない?」
彼女は真剣な面持ちをしていた。
「なわけないじゃん!」
へらへら笑いながら俺は歩み去ろうとしたが、
「話して」
きっぱりとしたその言葉に足を止めてしまう。彼女は続ける。
「私の妹、ずっと人に言えず抱えてて……それで」
そこで口をつぐむ。俺は振り返った。彼女はうつむいていた。長い髪で表情はわからない。泣いているような様子だ。そこまで心配してくれているのか。いや、この子は俺に気はない。たぶん妹さんのことを思い出しているのだろう。何があったのかは知らないが。
「黒木さんさ……聞いてくれるかな」
その彼女の真剣なその言葉に、俺は彼女にすべてを話してしまっていた。
少し前に幽霊屋敷に面白半分で行ってしまったということ。それから毎日、助けてという声が聞こえてくるということ。
そして先ほどその言葉が、助けてくれないんだ、に変わったということ。
その話をしている間、黒木さんはずっと真摯に話を聞いてくれていた。
「そっか…」
彼女はそれを聞いて何やら考え込んでいる。こんな話聞いたところでどうしようもないだろう。せいぜいお祓いやら、占い師やらなどのアイデアが出てくるだけだ。期待はしていない。
「いやーでもまじで聞いてくれて助かったわ」
俺は明るくいうと話を切り上げようとしていた。
「ま、明日土曜だし、ちょっとお清めにでも行ってみようかなって」
「ねえ、村上君」
黒木さんが静かな声音でいう。
「この人に会ってみない?」
とスマホの画面を見せてきた。そこにはツイッターのプロフィールが表示されている。
怪奇探偵という名前らしい。
「怪奇事件解決します……?」
フォロワー数も大したことがないし、怪しさ満点である。
しかし心配して教えてくれている以上、ストレートには言えない。
「あーどうだろ。でも大丈夫かな?俺みたいな学生の話聞いてくれるのかな、金だって持ってないし」
「確かに怪しさ満点なんだけど、私の妹ここで、解決してもらったらしくて。お金もそんなに高くなかったっていってた」
「へえ?」
目を見張る。信じたわけではないが、真面目な黒木さんが俺を騙そうとはしないだろう。本当に効果があるかどうかはわからない。しかし、きっと彼女の妹は救われたのだ。
授業中ということで黒木さんとは別れると、一人早退し、近くのファーストフード店に入り、少し迷ったがどこにも相談できないということもあり、早速連絡をしてみることにした。
すぐに返事が返ってきた。
「どんな相談だ?」
メッセージとともに相談料として、費用と決済方法について記載があった。費用は、バイト代ひと月分程度だ。
費用が何とか自分で払えそうなことに安堵しながら、メッセージを眺める。
初めてやり取りする相手であり、客である俺に対してこの言い方は、妙にぶっきらぼうな印象を受けた。
まあ、怪奇探偵などいう職業につく人間は普通ではないのだろう。
俺は状況を細かくテキストで書くとメッセージを送信した。
まったく知らない相手に、この説明しにくい悩みを相談するのは、勇気がいったが、いざ相談してみると、意外と知り合いより、知らない人間のほうが悩み相談がしやすかった。
変なことをいってしまったとしても自分の人生に大した影響をしないからだろう。二度と連絡しなければいいわけだし。
返事を待っている間、ハンバーガーを注文した。
待ち時間が落ち着かず、気が気でない。
またあの声が聞こえてくるかと思うと、怖くて仕方ないのだ。
幸い、返事を待つ間、声は聞こえてはこなかった。
「その声が聞こえてくる時間帯や、場所にパターンはあるか?」
そのメッセージを見てしばし考える。
確かに前から気になっていたことだが、自宅と学校にいるときによく聞こえる気がする。そして、今 この店内でも聞いていないのは確かだ。
時間帯は夜が多い印象だ。幽霊が活発に動けるのは夜ということもあるのかもしれないが。
そのことについて返事をする。
他にも様々な質問を受ける。俺はその質問に答えるが、まどろっこしくなり、直接会って相談できないかと返答してみた。
すると、
「可能だが特別費用をもらう」
その内容を見て舌打ちする。バイトをやっているとはいえ、所詮は高校生だ。金はない。親にもまだ相談したくない。実際顔を見ておいたほうが安心できると考えたのだが、追加料金を払うのは躊躇われた。
そもそも本当にこの怪奇探偵とやらに自分の問題が解決できるのかわからない。
通常のネット相談のみにした。
そして。
「だいたい把握した。振り込みが確認でき次第対処する」
そうメッセージが届き、俺はバイト代の入っている銀行へと足を向けた。
もしかしたら騙されているのかもしれないなと思いながらも。頼れる人がいないのだから仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます