第16話
動揺する気持ちを隠すように冗談を言うわたしに真由は「あはは、私は不安定な職業は嫌だわ、公務員が一番」と鼻の穴を膨らませた。
その日はずっと心にモヤが掛かったようだった。
「陸メジャーデビューすることが決まったんだって!」
仕事中もお客様と通話しながら何度も真由の声が脳内で再生された。
それでも一年同じ仕事をしていれば他のことを考えながらでも大概の案件はそつなくこなせるようになってしまったのが憎い。
仕事だけに集中せざるおえなければ、この先の見えない不安、心のモヤも晴れるのに。
陸は私の二個下の三十三歳だ。
私には言ってくれなかっただけかもしれないが、いつかサシ飲みをした時に、男だからとか、三十超えているからといって焦る気持ちは一つもないと嘘みたいに屈託のない笑顔で言っていた顔を今も覚えている。
「焦って上手くいくならいくらでも焦るよ?だけどそうじゃないじゃん、目の前にある事を一つ一つやっていくだけだから、そうすればいつの日かパーンってね」
その時は随分と合理的な考え方をするんだなと思った。
パーンか。
私のパーンはいつだろう。
グルチャに入るのをワクワクしていた自分がアホらしく思えてくる。
陸は全国放送で毎週歌声が流れるのに、私は小さなスマホの中でチマチマと。
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