第3話

その日も仕事が定時の十八時で終わると、いつもと同じように帰り支度を整えて、真由と一緒に会社を出て、彼女の婚活話や職場の疎ましい人間関係の話をしながら駅へ向かい、窮屈な満員電車に乗り込んで最寄り駅まで運ばれた。



時々自分が実はどこかで管理されている工場のライン作業の商品なんじゃないかと思うことがある。



運ばれて仕事をして、また運ばれていく。



「また明日ね、お疲れ様ー」

「うん、お疲れ様ー、理絵さん気をつけて帰ってねー」


私の最寄り駅の方が先なので、わたしは真由より一足早く電車を降りる。



あと何回この光景を繰り返せばいいんだろう。



電車を降りると自然にため息が出た。



こんなチンケな日々から抜け出して、いつかすごいことをやってみたい。

有名になりたい。

真由が、会社の人達が、家族が、私を振った元彼たちが、あっと驚く顔が目に浮かぶ。

羨ましがられる。



「はっ」

自然と口元が緩んでいたようで変な声が漏れてしまった。



周りを歩いている人に、なんだこいつ?と言わんばかりの目で見られるかと思った。

けれど、誰も私のことを見ていなかった。



私の後ろを歩いている人は見えないから分からないけれど、少なくとも前や横にいる人からは視線を感じなかった。

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