ようこそサキュバスだらけの天獄学園へ
木の芽
第1話 運命の分かれ道
人生において一生を過ごしても知らずに終わる事項は存在する。
ましてや国が情報を秘匿していれば、当然一般人は知るよしもない
そして、俺はいま極秘中の極秘部分に関わっていた。
国立
地図からも名前を消された孤島に立つ学び舎だが田舎臭さはなく、むしろ豪華絢爛な立派な作りと言えるだろう。
広大な庭。異世界かと思わせるほど白く美しい外観。甘い香りが漂う校舎。
だが、ここの最大の特徴はそれらではない。
まず生徒は俺を除けば女子しかいないということ。
「うぉぉぉぉっ!!」
俺――
なぜか。答えは簡単。
後ろから追いかけてくるクラスメイトたちから逃げるためだ。
「宮永くん! 怖くないよ? 安心して身をゆだねて?」
「わたくしを! ぜひわたくしを選んでくださいまし!」
「清き一発! 清き一発を私の中に!」
「選挙活動じゃねぇんだぞ、この野郎!」
豊満に実った胸と隠しもしない
休み時間=自由時間。
授業の合間に挟まれる10分間は彼女たちは狩り人となり、俺は獲物となる。
ただのクラスメイトという立場から関係性が変わり、本能が解き放たれる時間。
捕まれば待っているのは男の尊厳破壊。金玉壊死。その他もろもろ。
しかし、誰もこの命がけの鬼ごっこを止めたりしない。
もう一つ。
社会から隔離され、秘密とされている最大の理由。
それは――この学園の女生徒は全員が異世界からやってきたサキュバスだからだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
桜のつぼみが芽吹きだす季節。
高校入学前の少しだけ長い春休みに入っていた俺はとある病院へと足を運んでいた。
「あっ、お兄ちゃん! 今日も来てくれたんだ」
「当たり前だろ。
「えへへ……お兄ちゃん大好き」
にへらと笑みを浮かべる妹。愛くるしさと同時に悲しみが胸を締め付ける。
そんな彼女の小さな体にはいくつもの管がつけられている。
晴夏は国指定の難病を患っていた。
完治させるためには莫大な資金が必要となる。
母さんと父さんも必死に頑張ってくれているけど、一般家庭にはとても出せる金額ではなかった。
まだ学生の身である俺にできることと言えば、こうやって毎日お見舞いに来てやるくらいで。
それが何よりも情けなく、歯がゆい。
彼女も今ごろ中学生になり、楽しい学生生活を送っていたはずなのに。
「……お兄ちゃん、どうしたの?」
心配そうにこちらを見つめる晴夏。
いけない。こんな顔させたら兄失格だな。
なんでもないと答えると、俺は今日どんなことがあったのか晴夏の話を聞く。
優しいおばあさんがお菓子を分けてくれた。看護婦さんがまた破局して泣いてた。
病院内であった様々な出来事を楽しく教えてくれる。
楽しそうに話してくれる晴夏の姿を見ると俺もまた頑張ろうという気になれた。
そのまま面会時間ギリギリまで話し込んで、別れを惜しみながら病室を出る。
「じゃあ、また明日来るから。ちゃんと寝ておくんだぞ」
「うん、待ってる! またね!」
……晴夏は毎日辛い思いを隠して頑張っている。
どうにかして一日でも早く彼女が普通の日常生活を送れるようにしてやりたい。
そのためなら俺にできることならなんだってやる。
「ただいま」
返ってくる言葉はない。父さんも母さんもまだ会社か。
バッグをソファに下ろして、ポストに入っていた手紙の中から必要なものとそれ以外を分けていく。
その中で一通、異質なものがあった。
「……なんだ、これ?」
『重要』と書かれた封筒。あて先は俺になっているが、内容は皆目見当がつかない。
差出人は……なし。
「……手紙くらいで恐れる必要もないか」
封を切り、中に入っていた白い紙を取りだして目を通す。
「なっ……これは……!?」
その一文目は俺の意識を引き込むには十分な類いだった。
『この学園で三年間、童貞を貫いたなら願いを何でも一つ叶える』
……ゴミか。
くしゃくしゃとくるめて、ゴミ箱へとシュート。
ナイスゴールを決めた瞬間、ポケットに入れていたスマホが振動を始めた。
「はい、もしもし」
『いいんですか、宮永大吾様。妹様を助けるチャンスを不意にして』
「っ……!?」
慌てて家の中を見回す。
カーテンは空いていない。なら、盗聴? 盗撮?
グルグルと様々な可能性が頭をめぐったところで、落ち着きを取り戻すことを優先した。
深呼吸して、改めて不審者と会話を試みる。
「……あんたは誰だ?」
『初めまして。私は
「天獄高等学園……?」
聞いたことのない名前だ。実在するのかも怪しい。
そんな俺の思考を読み取っているかの如く、彼女は会話を進めていく。
『検索しても意味はありません。我が校はトップシークレット。一般人は決して知ることのできない領域にあります』
「……そんな情報を俺に教えていいのかよ?」
『ええ、宮永様は我が校への入学が認められましたから』
「は……?」
『優秀な才能を持つあなた様は我が校に入学する権利が与えられます』
待て待て、待ってくれ。
もちろん俺が受けた高校はあんな変な名前の高校ではない。
『いいですか、宮永様。あなたにとって重要なのは妹の晴夏様を助けられるチャンスだということです。戯言と切り捨てるなら結構。そうでないなら先ほど捨てた手紙をお拾いください』
妹の名前も当然知られている。
つまり、霧島とやらは俺らについて調べてあるわけだ。
ただの詐欺にそこまで手間をかけるだろうか。
少しずつ信憑性が増していく彼女の言葉。
俺が選択したのは話の続きだった。
『ふふっ、あなたは聡明な方だと信じていました』
「うるさい。このふざけた文章について説明してもらおうか」
『それについては場所を移しましょう。電話で話すには少しばかり長すぎる。玄関から外へ出てもらえますか?』
「……わかった」
通話を切らずに玄関口へ向かう。
右手にバッドを握りしめてドアを開けると、そこには黒服に身を包む長身の女性が立っていた。
俺の姿を見て、耳元にスマートフォンを当てていた彼女はニコリと微笑む。
『お待ちしておりました、宮永大吾様』
「私たちはあなた様をお迎えに上がりました。改めてこちらを」
そう言っては取り出した名刺を差し出す。
内閣異世界外交省:国立天獄高等学園 学園長というのが彼女の身分らしい。
異世界外交省? でたらめ並べているのか?
「さて、宮永様。まだ困惑はありますでしょうが、それを解消するために車の中でお話がしたい。しかし、詳細を聞いた後では引き返すことはできません」
彼女は懐から一枚の紙を取り出すと、俺へと渡す。
「一つ付け加えるならば、ご両親から許可はすでにいただいております」
「っ……!?」
急いで広げてみれば、同意書と書かれたそれに確かに見慣れた筆跡で両親の名前とハンコが押されていた。
これでようやく確信に至る。
彼女は本当に国に仕える者で、あの文章も嘘ではないのだと。
『この学園で三年間、童貞を貫いたなら願いを何でも一つ叶える』
つまり、晴夏の病気を治す資金も用意できる……!
「宮永様。いかがなさいますか?」
悩む余地など無い。
例え怪しかろうが、晴夏を助けられる可能性があるなら何だってやる。
その覚悟はいつだって持ち続けて生きてきた。
「行きます……!」
俺は晴夏を救い出してみせる。
ギュッとこぶしを握り締め、己に誓いを立てた。
必ずや童貞を守り切ってみせると。
「……いい表情ですね」
それでは、と言葉をつづけた霧島さんは深く頭を下げて、俺の手を握りしめる。
「ようこそ天獄学園へ」
「あなたを歓迎します、
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