<3-6 オタクは偏在する>

 意外にも、アルメリア族の幕舎には小一時間ほど歩いたところで到着した。

 石垣で周囲を固め、毛皮をこれでもかと貼り付けたテントが幾つも連なっている。

 そんなものが見えたというと、今まで黙って木の皮のそりに乗っていたアゴニトさんが暴れ出した。

 「お、下ろせっ、下ろせ!もう良い、歩けるわ!」

 「でも、もう少しで着くのですよ。あまり無理はしない方が・・」

 「エル、下ろしてやろう。」

 「大丈夫でしょうか?まだ顔色は優れませんが・・」

 ヨシュアス殿下は肩をすくめた。

 「多分、部族の者に対する見栄があるのだ。この格好、楽ではあるがあまり見栄えは良くないからな。オリータ、舌打ちをするな。」

 「ったく、人を酷い目にあわせといてわがままな・・」

 仕方なくそりの蔓をとくと、よろよろしながら立ち上がる。思わず差し出した王女様の手を振り払ったのが、またイラッとくる。

 そしてさらに咳き込み、よろけるアゴニトさんにあわせて歩いていたら、そこから幕舎の門にたどり着くまで30分以上かかった。私達3人が何度も手をさしのべたのに拒否して見栄を張り続ける様は、もはやいっそ清々しい。

 が。

 が、である。

 「アゴニト様!!」

 門番のたくましい青年二人が駆け寄ってきたのを見て、アゴニト様はのたまった。

 「にっくきガルトニ王国の王太子を捕らえてきた!牢にぶち込め!」

 「ちょ!!」

 ここまでつれてきてあげたのに!

 と、怒ろうと思ったが、ヨシュアス殿下に止められた。

 「あの門番を見よ。」

 「・・・・」

 目つきが悪かった。

 さっきアゴニトさんはにっくきガルトニ、と言ったけど、2人の青年の目にはそんな強い憎悪を感じる。

 青年の一人が進み出た。

 「アゴニト様、王は今お会いできません。アクィラ族長が来ております。」 

 「そうか・・ならば、しばらく待つとしようか。」

 「はっ。この女どもは?」

 鋭い視線が王女様に向く。

 「私は・・王太子様の侍女です。」

 視線が私に向いた。

 「侍女の侍女です!」

 「王太子と一緒にいた故、仕方なくつれて来た。とりあえず此奴らも牢に入れろ。」

 青年の一人が大声で呼ばわり、2人の青年が走り出てきて、私と王女様、ヨシュアス殿下を引き離した。

 王女様と視線を交わし、ヨシュアス殿下がうなずく。

 そのまま私達は二手に分かれ、引き立てられた。


 私と王女様を連れて歩いているのは、よくよく見れば顔にそばかすが残る、まだ高校生くらいの男の子だった。

 だけど、なんか様子がおかしい。

 歩いていたかと思えば止まる。そしてちょっと考え込み・・引き返す。しばらく順調かと思えばまた止まり、考え、引き返してさっきと反対の通路を進む。

 「ねえ、オリータ。」王女様がささやいた。「この方、もしや道に・・」

 「迷ってますよね。」

 男の子がきっ、とこっちを見た。

 「な、何をしゃべってる!」

 「え、えーと・・あの、道、こっちかなあ、って・・」

 「こ、こっちだ!間違いない!おれはここに来て10日だ!」

 「はあ。」

 「お前達より断然詳しい!」

 そりゃあね。私達、さっき着いたばっかだし。

 「だから黙っておれに着いてこい!えーと・・こっちだ!」

 「えーととか言ってる・・」

 「ここはさっき通った気がするのだけれど・・」

 「通ってない!初めて来た!」

 聞こえてた。

 「ああ、はいはい、通ってない、通ってないよ~。」

 「え、ええ、よく見れば初めてのようね。」

 もう・・この子は。捕虜に気を遣わせてどうする。

 右往左往する男の子を生温かい目で見守りつつ、私達は後をついていった。

 

 15分ほどさまよった後、ようやく男の子は足を止めた。

 「こ、ここ・・だ。」

 私と王女様は顔を見合わせた。

 「ボサッとするな、入れ!」

 開いたドアから追い立てられるように中に転がり込む。

 「後は命令があるまで出てくんな!」

 そう言って乱暴にドアを閉めた。ところが・・

 ドアの外から小さく声がする。

 『あれ?・・なんでだ・・鍵が合わねえぞ・・』

 鍵穴がカチャカチャと音を立てる。

 再度顔を見合わせる私と王女様。鍵もかけられんのかい、この子は。ウチの中学生の息子の駿太だって、なんなら10歳の娘沙緒里だって、家の鍵くらいはかけられる。

 『よし、こんなもんでいいか。』

 ちょっと!牢獄の施錠に妥協したよ、この子は!

 足音を忍ばせてドアに張り付き、廊下の足音が去るのを聞こうとして・・ドアに耳をつけたら、体重がかかったドアが開いた。

 「「・・・・・・・・・・」」

 とりあえず、静かに開いたドアを閉める。

 「大丈夫かしら、あの方は・・」

 王女様は本気で心配していた。

 「うちの子には施錠の後ちゃんとかかっているか、調べるように言おうと思います。」

 「その前に、あの方にそれを言ってあげた方がいいかもしれないわ・・」

 そんなことを言いながら私達は押し込められた部屋を見回した。

 「・・あの、王女様、牢ってこんな感じですか?なんかもっとこう・・薄暗くてじめっとしてるものでは?」

 「そうね・・こんな牢は私も初めてです。」

 部屋は明るかった。大きな金属のランプがつり下がり、隅々まで照らしているおかげで、部屋の様子がはっきりわかる。床にはふかふかの毛皮を何枚もつなげたカーペット、壁になっているテントの布にはかわいい小花柄の刺繍が施され、ドアの左手におかれたダブルサイズのベッドは毛皮がしかれ、布団にはトナカイみたいな動物が見事にキルティングされている。右手の壁には何か動物の毛皮が貼り付けられ、弓矢や刀など物騒なものが括り付けられているが、よく見れば、ひもや鞘の装飾などに赤やピンクのビーズが使われて花模様などを描き、やっぱりかわいい。

 「・・・・」

 「どうしたの、オリータ?」

 「この弓とかかってる毛皮、なんか盛り上がってません?壁から浮いてるっていうか。」

 「そういえば・・あら、裏に大きな箱のようなものがあるわ。」

 「ちょっとだけ、めくってみますね。失礼しまーす・・・うお。」

 「ど、どうしたの?何かおかしなもの・・いえ、危険なものでも?」

 「いえ・・」武器を落とさないようにそっとめくりあげる。「ヒギアが一杯です。」

 

 正確に言うと、カーテンの裏に置かれた棚4段の内上2段がヒギアの棚で、下2段は本で一杯だった。本を一冊取ってめくった王女様が口に手を当てた。

 「こ・・これはウスイホンだわ!」

 「えっ!」

 「見て、これは水銀のレルタリス著とある・・こちらは『待宵薔薇』シリーズだわ!」

 「王女様、このヒギア、もしかして『灰かぶりの騎士』のキャラじゃないですか?」

 「ああ、そうだわ!この黒い長髪に三日月型の短剣は盗賊のシュライドよ!そしてこちらは若くして警備隊長に選ばれた天才少年ラルディだわ!金髪に紫の瞳がその印よ!」

 「シュライドとラルディですか・・」腕を組んで考える。「立場と年齢を超えた愛を感じるますな。」

 もちろん、実際の物語にはそんな関係はない。ないですよ?

 「時折現れてはちょっかいを出して去って行くシュライド・・でもいつしかラルディはそのやりとりが楽しくなり、再会を待ち焦がれるようになる。」

 「そしてある日、ついにラルディはそれが恋だと気づくわ。そして、その思いを口にしてしまう。」

 「いつものように剣を交えての立ち回り中に、思わず、ぽろっと!」

 「立ち回り中に・・いいわね!」

 「いいですね!でも、立場と年の差故にシュライドは去って行き、しばらく音信不通に・・でもってさらに魅力的な青年に成長したラルディとひょんなことから再会して、改めて恋に落ちる!」

 「時間差のある恋・・結末がわかっていても切ないわ。あっ、これは白銀鎧の騎士クラインと黒銀鎧の騎士グライドではなくて?私、実はこの組み合わせも良いと思っていて。」

 何度も言うけれど、王女様は重度のBLオタクである。そして私も同じ穴のむじな、学生時代はBL・二次創作・オリキャラ作品と描いては売った、BLがやおいと呼ばれた時代からのオタクである。そんな二人が長時間の緊張を強いられた後で、一度に一気にオタク成分を摂取してしまったものだから、妄想が止まらない。

 私はクラインとグライドのヒギアを、向かい合わせに置いてみる。

 「すてきだわ!白鳥のごとく優雅なのに氷のように冷たい青年クラインと、巌のごとく峻厳なのに火のように熱いグライド・・オリータ、その・・どちらから・・だと思う?」

 「攻める側がどっちかという話ですね?」

 「攻める、側・・」

 「クライン・・と見せかけてグライドが攻め!でいきます!世慣れしてそうなクラインが騎士道一筋に生きてきたグライドの熱に墜ちてしまうんです・・くっ、たまらん・・」

 「いいわね!ではこちらは?」王女様は金波碧眼の青年と黒髪に黒い目の青年を隣り合わせた。「幼なじみで、騎士団に入っても仲の良いルドルフとアルトゥル。互いに思い合っているのに言い出せずにいたところ、別の騎士にどちらかが奪われそうになり、奪い返して告白するの!攻めるのは快活なルドルフ!」

 「いいですね!正統派な感じが逆に新鮮です!あ、そういえばグライドはこっちのカディルとも合うと思うんですよ、お互い無口で熱い者同士がぶつかり合い、惹かれゆく・・」

 「攻めるのは・・ああ、決められない!どちらからともなく自然にふれあうというのはどうかしら。」

 「自然に・・いいですね!」

 「いいわね!」

 「あんた達、何をしてるのよっ!!」

 「「!!」」

 私達は同時に振り向いた。

 開いたドアから赤毛のお下げを色とりどりのビーズで飾った女の子が、怒りで顔を真っ赤にしながら踏み込んできた。

 歩きながら、腰の後ろから何かを抜いて・・短剣だ!反射的に両手を挙げる私。

 「ちょっ・・ちょっと待って!私達は敵意無し!てか、むしろ捕虜として捕まった方!」

 「はあ?捕虜?捕虜がなんであたしの部屋にいるのよ!」

 「貴女の部屋?ここは貴女のお部屋なの?」

 「そうよ!死にたくなかったら、そこをどきな!・・いや、むしろ、今殺す。」

 「え。」

 「それを見られたからには、今すぐ殺す!」

 「ま、待って!話せばわかるから!」

 「話すことなんてない!今すぐ死ね!」

 「待って!聞いて!」王女様が凜とした声で言った。「吟遊詩人のキーンと薄幸の王子ヘンリーはすばらしい組み合わせだと思わなくて?!」

 「?!」

 女の子が動きを止めた。

 「攻めるのはいつも冷静沈着なキーン!年下のヘンリーだけにはどうしようもなく我を失ってしまうのです!」

 「せ、攻める・・?それって・・その・・仕掛ける方?」今度はたぶん別の理由で顔を赤くする女の子。「じゃ、仕掛けられる方は・・」

 ここは私が回答する。

 「受け、かな。」

 「う、受け・・!じゃ、ヘンリーが・・う、受け・・」

 「からの。」

 「からの?!」

 「ヘンリー受けからの、ある日突然豹変しての下克上!つまり、いつも攻められる側のヘンリーが突然攻めに転ずる!」

 「!!!!・・ゲコクジョウ!」

 ・・うーむ、さっきからこの世界に新しい(そして、ろくでもない)日本語を吹き込んでいる気がする・・

 短剣がトン、と毛皮の上に落ちた。

 「あ、あんた達・・あんた達って・・」

 王女様は静かにうなずいた。

 私は穏やかに微笑んだ。

 「同志・・です。」

 3人はガシッ、と手を握り合った。

 「こんなことがあるなんて・・こんな辺境で、ウスイホンやヒギアのことを他人に話せる日が来るなんて・・」

 女の子は感動して半泣きになっていた。

 ・・オタクはどこにでもいるなあ。


 「じゃあ・・あんたが今日捕まったっていう、ガルトニ王太子の侍女で・・」

 「エル・・ルと呼んで下さい。」

 「あ、私は侍女の侍女で、オリートと呼んで下さい。」

 「エルルとオリートね。それにしても、あのオオカミみたいなガルトニ王国の女官に、こんな話のわかるヤツがいたなんてねー。びっくりだわ。あたしはマリリス。うちはアルメリア族って部族で、父さんは部族の王よ。」

 「へえー、すごい!王女様なんだ!」

 「よしてよ、王女様なんて柄じゃないよ。王女様ってのはさあ、もっと・・そうだ!」本棚からウスイホンを1冊引き抜く。「こういうのに出てくる人だと思うんだよね。」

 「まあ、これは・・」

 「おお、湖畔のヴィオラさんの本だ!私も大好きなんだよね、この作者さん!言葉使いや文体が典雅で奥ゆかしくて、ちまたでは“天上の音楽”って言われてるんだよ!」

 「“天上の音楽”?!湖畔のヴィオラは、そんな風に言われているのですか?!」

 王女様が目を見張り、マリリスちゃんは両手を頬に当ててほう、とため息をつく。

 「あー、わかるー・・だって聞いたことがないくらい優しくてきれいな言葉が、一杯あるんだもん。あたしさ、勉強が嫌いで字がちゃんと読めなくてさ、ウスイホン買っても飛ばし読みしてたんだけど、この人の本見て、初めて全部、残らず字を読みたいと思ったんだ。現実の自分はこんな荒野に住んで、酒と肉かっくらってケンカばっかりしてる荒くれどもに囲まれてるんだけど、この人の本読んでる時だけは自分もきれいなお城や庭にいて、静かにお茶を飲んだり、刺繍したりするお嬢様みたいな気分になれるんだ。それで一生懸命一人で字を勉強した。」

 「おおー・・」動機はともかく、「一人でよく頑張ったね!」

 「本当だわ。一人で字を勉強するなんて、大変なことよ。」

 「やだな、恥ずかしいよ。」

 真っ赤になってこめかみを掻くマリリスちゃんは、大変かわいらしい。

 「あの、ところでマリリスさん。私達はここが牢獄だと言われたのですが・・」

 案内してくれた子の人相風体を話すと、マリリスちゃんはため息をついた。

 「それってマブキだ・・ったく、ここに来て10日も経つのに、牢獄とあたしの部屋の区別も付かないわけ?村に返してやろうかな。」

 「本物の牢獄はどちらでしょう?ヨシュ・・アス様にお会いしたいのですが。」

 「ああ、あの王太子ね。父様の会談がすんだら尋問とかやって・・どうなるかは父様が決める。近頃はガルトニの商人もやってくるけど、あいつへの恨みを忘れてないヤツもまだいるからさ。」

 予想外に強い言葉が出てきて、私は驚いた。

 「恨み?ヨシュアス殿下はこの部族との戦いでは、けが人しか出なかったって・・けがだけでもそんなに恨まれるの?」

 「けが人だけ?あいつ、そんなこと言ってんの?!」

 マリリスちゃんの頬が再び怒りに染まる。

 「で・・でも、ヨシュアス様はそう言っておりました。互いにけが人のみの被害だった故、戦いと言うより小競り合いの域であったと。」

 「・・侍女が聞いてる話だとそんなもんか。」は、と息をつくマリリスちゃん。「5年前だったかな。アゴニト爺さんが、使ってる精霊の報せで、国境の砦の辺りにガルトニ兵が集まって不穏なまねをしていると知った、ついては兵を貸してほしい、追い払ってくるって言ってきてさ。2日ぐらい経って、一人でぼろぼろになって帰ってきたよ。連れて行った兵は全員王太子の命令でガルトニ兵に殺された、自分だけがそれを伝えるべく最後の力を振り絞って精霊を呼び、何とか帰ってきたって。兵達は遺体を連れ帰りに行った者が、目を背けるぐらい酷い殺され方だったって。あたしは12歳だったけど、死んだ兵の遺族が夜も日もなく泣いて、父様の所にきていたのをよく覚えてる。」

 「「・・・・」」

 5年前なら、互いに軽傷者しか出なかったという、ヨシュアス殿下の初陣ではないのか?

 「ヨシュアス様が関わったほかに、こちらの部族とガルトニが戦った戦はありますか?」

 マリリスちゃんは肩をすくめた。

 「それ以来、ガルトニと事を構えたことはない。あんだけ酷い殺し方をしたから、王太子が罰を食らったとかしたんだろうって皆言ってた。こっちの復讐が恐くて、ガルトニは攻めてこないんだろうともね。」

 「でも・・交易はあるんですよね?」

 「父様が王太子の所行に目をつぶったんだ。反対する者はかなりいたけど、押し切ってね。どうしたってガルトニの方が色々進んでるから、それを取り入れて他の部族より優位に立とうってわけ。でなきゃ、商売だけとはいえガルトニと仲良くなんてできないよ。」

 王女様は眉をひそめた。

 「・・やはり私達をヨシュアス様に会わせて下さい。」 

 「でも・・牢にあんた達を連れてくなんてできないよ。」

 「お願いです。ヨシュアス様と貴女の話に違いがありすぎます。」

 「あんた達はあたしが助けるよ!侍女と侍女の侍女だろ?!あの時の戦には関係ないし、あたしの友達だって言えば、父様は助けてくれるに違いないんだから!」

 「お友達と呼んでくれるならばなおさらのこと、両国の無益な争いにつながるような芽は摘み取っておきたいのです。ヨシュアス様と貴女、二人とも私にとっては大切な方です、お二人の敵対が避けられるものならばそうしたいのです!」

 「エルル・・あんた、そこまであいつに忠義を・・」

 忠義というより愛情なのだけど、どのみち私は王女様を援護する。それには・・

 「マリリスさん、賄賂を受け取って下さい。」

 「え・・?」

 目を点にしたマリリスちゃん。私はデイパックから紙袋を引っ張り出した。中身はもちろん・・

 「こちらは水銀のレルタリスさん。こっちは空色のわすれな草さん、そして最後は湖畔のヴィオラさん!全部最新刊です!!」

 「!!!!!!」

 「私達をヨシュアス殿下の所に連れてってくれるなら、全て差し上げます!そして今ならなんと!」手帳を引っ張り出して、あるページをちぎる。「月下のベルナさんのサイン付き!!」

 「!!!!!!!!!!!!!」

 マリリスちゃんは感動に打ち震えていた。隣で王女様も打ち震えていた。

 「オ・・オリート・・月下のベルナさんのサインなど、いつの間に・・」

 「以前“マウステンの塔”で会った時にもらったんです。」

 「でも、こんな・・月下のベルナのサインなんて貴重なもの、あたしがもらうわけにはいかないよ!」

 「いいんです。」職場で柚月ちゃんにもう一度もらえばいいので。「それだけ、エルル様の言ったことは大事ってことです。」

 毛皮に置かれた3冊の最新刊とサインをマリリスちゃんはしばらく見つめ、そして・・

 「普通、賄賂って自分の立場が良くなるためにやるもんだよね。ふふっ・・牢に行くために渡す賄賂なんて初めて聞いた。」

 そっと、ウスイホンとサインを紙袋に入れ、マリリスちゃんは立ち上がった。

 「わかったよ。あたしもあんた達と話が違ったままでいるのは嫌だ。牢に連れて行く。で、あたしも王太子と話したい。」

 マリリスちゃんはにこっと笑った。ここは北国だけど、ひまわりを思わせる笑顔だった。

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