12-2 狂気のダミアン

「姉さんはどんな花が好きなのかな?2人でリヤカーを引いて花を売りに町まで行ったことは何度もあるけれど、姉さんは一度も花を買ったことが無かったからね。どんな高級花だって買ってあげるよ。バラ?ダリア?カトレアなんかもいいよね?ああ…でも姉さんは綺麗だから、どんなに美しい花でも姉さんの前では色褪せて見えるかな?」


うっとりした目つきで私を見るダミアンに、身体の震えは止まらない。

一体…ダミアンはどういうつもりで、ここまでやってきたのだろう?

いや、それよりもダミアンは何故私の居場所が分かったのだろうか?


「ダミアン…せっかくだけどお花はいらないわ。見て分かる通り私は今アルバイト中なのよ。今お花を渡されても…正直困るのよ。そ、それに…何故私がここにいることが分かったの?」


恐怖を押さえつつ、ダミアンに尋ねた。


「そんなのは簡単だよ。学園の場所は知っていたからね。住所を頼りに学園へ行って、姉さんがいるはずの女子寮を尋ねたのさ。そうしたら今はアルバイトに行っていてここにはいないと言われたからアルバイト先の住所を聞いて訪ねてきたんだよ。ここまで来るのに半日以上かかってしまったけど…やっぱり来て良かった。こうして姉さんに会うことが出来たからね?」


ダミアンは何が嬉しいのか、満面の笑みを浮かべて私を見る。


「と、とにかく…今はアルバイト中なの。こんな風に来られたら…困るのよ…。お願いだから帰ってくれる?」


これ以上話をしているとカトリーヌさんに怪しまれてしまう。第一、私はダミアンが怖くてたまらなかった。


「帰る?一体どこへ帰れっていうんだよ」


ダミアンが今にも泣きそうな顔で私を見る。


「帰るって…あ、貴方の家に決まってるでしょう…?」


「姉さんの家でもあるよ」


「そ、それは…」


お父さんにはもう、家には帰らないほうがいいと言われていた。私もダミアンがいる家には帰れないと思っていた。

卒業と同時に私はユーグ様の待つ公国へ行く…。心は既にそう、決めていた。


だけど、今のダミアンに下手なことをいえば逆上し…何をするか分からない。

レナート様の件で既に分かっていたけれども、ダミアンの目にも狂気の色が宿っていた。


とにかく今はこの場を何とか切り抜けないと。


「私…いつも17時にアルバイトが終わるのよ。だから…今は帰ってくれる…?」


するとダミアンの顔に笑みが浮かぶ。


「17時?17時にアルバイトが終わるんだね?そうしたらまたここへ戻ってきてもいいんだよね?」


「ええ…。いいわ…」


本当はちっとも良くなかった。

けれど、アルバイト先に迷惑はかけられない。今は…この場にいるダミアンを宥めて帰ってもらうしか手段は無かった。


「分かったよ。姉さん、17時になったらまた迎えに来るよ。その後の予定は…ゆっくりこれからのことを話そう?」


「そ、そうね…」


これからのこと?一体どんなことなのだろう?


「それじゃあね、姉さん」


ダミアンは笑みを浮かべると、手を振って花屋を後にした―。



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