7-7 『ヘンデル』到着
午後3時―
私は終着駅『ヘンデル』に到着した。
足元に置いたトランクケースのハンドルを握りしめると、アコーディオンカーテンを開けた。
すると、丁度隣の席の貴族と見られる家族と視線が合ってしまった。
高級そうなコートに身を包んだ50代程の年齢に見える夫婦と思しき2人に、年の頃は私と同年代の様にも見える少女と少年。2人共、金色の髪に同じ青い瞳をしている。恐らく彼らは家族なのだろう。
「あ、すみません。お先にどうぞ」
どう見ても彼らは私とは違って身分の高い貴族の方達だった。そこで私は先に降りて貰う事にした。
「あら、そう悪いわね?」
貴婦人はチラリと私を一瞥すると、紳士と2人で通路に出た。その後ろを続く少年と少女。特に少女は私に露骨に軽蔑したような視線で私を見ている。
まるで、どうして私のような平民の貧乏人が特別車両に乗っているのだと言わんばかりの視線だ。
一方少年の方は好奇心旺盛な目で私をジロジロと見ている。
…やっぱり、こんな貧しい身なりで乗るべきでは無かったのだ。イアソン王子も何故よりにもよって、特別車両を用意したのだろう。世の中には分不相応という言葉があるのに…。
4人組の家族連れが通路を歩き始めたところで、私もトランクケースを持って後に続いた―。
****
『ヘンデル』は温暖な気候で過ごしやすく、一部の貴族たちの間ではリゾート地として人気がある国だった。そしてイアソン王子はこの王国の王太子…王位継承者だった。
「そんな凄い方に私は招かれたのね…」
ポツリと呟き、私は大勢の人混みに紛れながらホームを通り抜けて駅の改札を目指した。
「イアソン王子は何所かしら…?」
トランクケースを下げて人混みで溢れるホームを抜けると、やがて改札が見えて来た。
そして私はイアソン王子らしき人物が改札付近に立っている事に気付いた。
「あ、イアソン王子だわ」
そしてイアソン王子の元へ向かって歩き始めた時…。
「え…?」
そこには先程、隣のボックス席で出会った家族連れの姿があった。4人はイアソン王子と向き合って親し気に会話をしている様子に見えた。
「まさか、イアソン王子のお知り合いだった方なの…?」
その時になって、ふと思った。ひょっとすると、本来あの方達が招かれてイアソン王子に招かれており、私はついでだったのではないだろうかと。
だとしたら、私はどうすれば良いのだろう?改札を潜り抜けて王子に声を掛けるべきなのか、それとも私はついでに招かれているだけなので、会話が終るまでは声を掛けるの待つべきなのか…?
しかし、迷う事は無かった。
彼等はイアソン王子との会話が終ったのか、頭を下げると王子の元を去って行った。
もしかして偶然知り合いだっただけなのだろうか…?
そこで私は改札を潜り抜けるとイアソン王子に声を掛けた―。
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