7−1 行き場がない私
「そ、そんな…」
手紙を読み終えた私は身体の震えが止まらなかった。15日の11時と言えば、明日だ。明日…ダミアンは私を連れて何処かへ逃げるつもりだったのだ。
「知らなかったわ…」
まさか、ダミアンがこんな計画を立てていたなんて。私の事を…そこまで思っていたなんて…。
私が今日、あの家を出た事を知らされたダミアンはどう思っただろう。
今にも泣きそうな顔で必死になって私の乗った汽車を追いかけている時…どんな気持ちでいたのだろう。その事を思うと、どうにもやるせなかった。
「ダミアン…ごめんなさい。私…貴方をとても傷つけてしまったのね…?」
だけど、私はダミアンの気持を受け入れる訳にはいかない。ダミアンは私にとって、所詮はただの弟。異性として等一度も見たことが無かったから―。
「やっぱり…私はもう二度とあの家に戻る事は出来ないわ…」
そして目を閉じ、窓枠に寄りかかる様に眠りについた―。
****
8時の汽車に乗り、『セントラルシティ』の駅に到着したのは午後2時過ぎだった。相変わらずこの町は大勢の人であふれ、馬車が行き交っている。『フロン』とは雲泥の差だった。
「これから長い冬休み…どうやって過ごせばいいのかしら…」
父には学園へ戻るように言われたけれども、長期休みは寮に残ることは出来るけれども一切の食事が出ることはない。
「食事…どうすればいいのかしら…」
呟きながら辻馬車乗り場へ向かった。
ユーグ様から小切手は預かってあるけれども…意地っ張りと言われてしまうけれども、それでも私は小切手を使う気にはなれなかった。
アルバイトを増やしてもらって、日払いでアルバイト代を貰えないだろうか…?
そこで私は一度学園へ荷物を置きに戻ってからカトリーヌさんの店へ向かおうと決めた。
ガラガラと揺れる辻馬車の中で私は窓から外の景色を眺めた。綺麗に石畳で舗装された道…大通りに面して左右に立ち並ぶ様々な店…。
フレディもダミアンもこれらの都会の風景を一度も見たことは無いのだ。
私だけが学校に通わせてもらっている…。
そう考えると、2人の弟たちが哀れでならなかった。
特にダミアンは頭も良いので、尚更気の毒だった。本当は都会に出て勉強をしたかったはずなのに…。
気付けば、私はダミアンの事を考えていた―。
****
学園に馬車が到着した。
「どうもありがとうございました」
馬車代を支払い、荷物を持って私は馬車から降りた。
「またのご利用をお待ちしております」
御者のおじさんはお金を受け取ると、頭を下げて再び馬車を走らせて行った。その後ろ姿を見届けると、私は寮へ向かって歩き始めた。
寮へ続く敷地内はしんと静まり返っていた。前方に見える寮も人の気配を全く感じられない。
「…」
今はもう寮母さんすら里帰りしていないので、本当にここには1人きりになってしまうのだと思うと、不安が込み上げて来る。それでも私には行き場が無かった。
「仕方ないものね…」
溜息をついて、女子寮に向かって歩いていると人の気配を感じた。
「?」
訝し気にそちらを見て驚いた。なんとイアソン王子が箒で枯葉を集めていたのだ―。
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