6−13 会いたくなかった相手
フレディと2人で町に出て、お肉や野菜を買いこんだ。
「それにしてもすごい量ね…。1周間分位はあるのかしら?」
2人で路地の隅の方に停めておいた荷馬車に食材を積み込みながらフレディに尋ねた。
「うん、そうだよ。まとめて買い置きするようにしてるんだ。もうこの時期は寒くなってきたから食材も傷みにくいからね」
「そうね」
言いながら2人で荷物を積んでいく。
「よし、行こうか」
「ええ、そうね」
フレディに声を掛けられ、返事をした。そして馬車に乗り込もうとした時、声を掛けられた。
「あれ?おい。ロザリーじゃないか?」
「え?」
振り向くと、そこに立っていたのはこの町に住む地主の息子で私と同じ年のペーターだった。私は前から彼が苦手だった。町で会うたびにしつこく声を掛けらたからだ。
「何だよ〜里帰りして来たなら教えてくれればいいのに…随分水臭いじゃないか」
ペーターは大股で近付いてくると、いきなり私の右腕を掴んできた。
「な、何するの?!」
しかし、ペーターはそれには答えずに私に顔を近づけてきた。
「ロザリー、噂に聞いたんだけど…お前他の国へ留学してるんだって?やっぱり最近姿を見せなかったのって留学していたからか?」
「…」
私は黙っていた。ペーターには何も話したく無かったからだ。
「おい!姉ちゃんを離せよっ!」
御者台から飛び降りたフレディがペーターの腕を掴んだ。
「うるせえっ!チビッ!」
ペーターは乱暴にフレディの腕を振り払った。
ドサッ!
地面に尻もちをつくフレディ。
「いって…」
「フレディッ!大丈夫っ!」
心配になってフレディに声を掛けた。すると何が気に入らなかったのか、ペーターの顔が歪む。
「何だよ、ロザリー…俺が側にいるのに、余所見なんかしやがって…!」
グイッと強く腕を引っ張られた。
「キャアッ!」
「姉ちゃんっ!」
するとその時―。
「何やってるんだっ!!
鋭い声が近くで聞こえた。
「え?」
「あ!」
私とペーターが声の聞こえた方角を見ると、リュックサックを背負ったダミアンが偶然粉屋の前で立っていた。
「ダミアンッ!」
ペーターに腕を掴まれたまま私は叫んだ。
「チッ!またお前かよ…っ!」
ペーターは吐き捨てるようにダミアンを見た。
「お前…また姉さんにちょっかい出してるのかっ?!その汚らしい手を離せよっ!」
ダミアンが怒りをあらわにする。
「ダミアン…」
私にはにわかに信じられなかった。まさかそんなセリフがあの穏やかなダミアンから飛び出るとは思わなかった。
「うるせっ!俺に指図するな!俺を誰だと思ってるんだよっ!」
ペーターは私の腕を握りしめたままダミアンと対峙する。掴まれた腕が痛くて思わず顔を歪ませた。
「ね、姉ちゃん…」
フレディはすっかり怯えて動けないでいた。
「姉さんっ!」
ダミアンはこちらへ駆け寄ってくると、ペーターのあいている腕をねじ上げた。
「いってー!!は、離せよっ!!」
ペーターが悲鳴を上げて、私の腕を離したのでその隙きに彼から距離を取った。
それにしても気付かなかった…。いつの間にかダミアンの背はあのペーターの身長をとうに超えていたし、力も上回っているのだから。
「おい…。今度また姉さんに手を出そうとするのなら…ただではすまないからな」
ダミアンはペーターの腕をギリギリとねじ上げながら憎しみの目を向けている。
「わ、分かったよっ!」
ペーターが返事をすると、ようやくダミアンはその腕を離した。
「く、くそっ…!」
悔しそうに逃げていくペーターを見届けると私はダミアンを見た。
「ありがとう、ダミアン」
すると…。
「姉さん…」
ダミアンの顔が苦しげに歪み…。
「!」
次の瞬間、私はダミアンに強く抱きしめられていた―。
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