4-12 保健室
『風邪を引いたのは僕の責任じゃないし』
その言葉が頭の中で反復される。まるで頭を金槌で殴られでもしたかのような衝撃だった。まさかそこまでの言葉があの優しいレナート様の口から出て来るなんて信じられない。いや、信じたくは無かった。
「私…おもいきり嫌われてしまったのね…」
堪えていた涙が溢れて来て、ポタリポタリと制服の上に涙が落ちてシミを作る。教室に戻らなければならないのに、そんな気力も沸いてこない。それどころかレナート様のいる教室に怖くて戻れなかった。戻って冷たい視線で見つめられるのが辛かった。いっそ存在を無視してくれればいいのかも…そう思ってもやっぱり辛い。だってあの方は私の好きな人で、初恋の相手だから…。
ここで私が教室に戻らなければレナート様は何と思うだろう?
いなくて良かったと思うだろか?それとも自分への当てつけで教室へ戻らないのだろうかと思うだろうか…?
「…駄目ね…きっと、どっちにしろ憎まれる事に変わりないわよね…」
ハンカチで涙をぬぐいながらポツリと呟く。だとしたら私は今の自分の心に従おう。
「具合が悪いと言って…保健室へ行きましょう」
どのみち、泣いたせいなのか再び激しい頭痛に襲われていた。先程風邪を引いたのはレナート様のせいではないと伝えてあるので、特に気にする事は無いだろう。
ポケットからコンパクトミラーを取り出し、自分の顔を覗いてみた。目が赤くなって涙の筋が付いている。
自分の顔を見つめていると、再び先程の出来事が思い出されて、鼻の奥がツンとなる。
「だ、駄目よ。余計な事考えちゃ…保健室に行くのだから。それに本来私はこんなに泣き虫じゃ無かったはずなのに…」
ハンカチで目を押さえながら自分自身に言い聞かせる。
そう、あの日…幼い弟たちを残して母が病気で亡くなったあの時から父を助け、幼い弟たちを守る為に泣くのはやめようと心に決めて、一生懸命働いて貧しいけれども幸せな暮らしを送っていたのに…。まさかここに来て、好きな人から冷たい言葉を投げつけられただけで、こんなに心が折れて涙が出てしまうなんて…。
暗い気持ちにとらわれ過ぎた為なのだろうか?ますます具合が悪くなってきた気がする。
「保健室へ…行きましょう…」
重い身体を何とか起こし、私は壁伝いに歩きながら保健室を目指した―。
****
「華氏101.3 度(摂氏38.5度)もあるじゃないのっ!」
白衣姿の保健室の先生が驚いた様に言う。
「そんなにありましたか…?」
ベッドに寝かされ、ズキズキ痛む頭痛に我慢しながら先生に尋ねた。
「ええ。酷い熱だわ。本当はまだ体調が良くなってなかったんじゃないの?」
「良く…分りません…」
赤い顔で答える。
「とりあえず今日は1日ここで休んでいなさい。担任の先生には私から伝えておいてあげるから。ゆっくり休むのよ?」
先生が氷嚢を当てながら言う。
「はい、ありがとうございます…」
ベッドに横たわったら安心したのか、それとも体調が悪いせいなのか…急激な眠気に襲われ、私は眠りに就いた―。
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